ホラー短編「幽世・中編2」

洋一達は鳥居の前に立ち尽くしている。

鳥居の奥は暗闇が続いている。

長尾がカメラを肩に担ぎ、撮影を始める。

落合、汗が頬を伝う。

「なんというか、この世の雰囲気ではないですな」

寺尾が落ち着いた様子で、一礼する。

「これがオソロシドコロ、人が踏み込んではならない神聖な場所です」

落合、唾をごくんと飲み込む。

「思っていたより、雰囲気あるな、ははは」

落合、田井中を鳥居の中に指を指す。

「おい、田井中から入れよ」

田井中、驚く。

「えっ、おれからっすか?」

「あぁ、行けよ」

「む、無理っすよ」

「いいから、行け!」

「わ、わかりましたよ…」

田井中、渋々歩きだす。

「くれぐれも足元には注意してください」

寺尾、睨むように落合と田井中に話しかける。

田井中、弱々しく震えた声で口を開ける。

「は、はい…」

田井中、足が震えながら、歩き出すが、鳥居の前で尻込みする。鳥居を超えるのを躊躇している。

だが、落合が田井中の背中を押す。田井中は蹌踉めき、鳥居を潜る。

田井中、過呼吸のように息切れし、立ち尽くす。

「や、やめてくださいよ」

落合、落ち着きを取り戻し、鳥居を潜る。

「よし、何もないな。奥へ行くぞ」

寺尾、洋一、長尾が続々と鳥居を潜る。

田井中はおどろおどろしく、怖がっている様子だったが、落合達と共に歩き、一同暗闇の中へ消えてく。


お堂の扉が開いている。扉の奥、暗闇の中からからこの世のものとは思えない呻き声が漏れている。

田井中が青ざめた様子で扉を指差す。

「と、扉が開いている…と、透君はこの中に…?」

「そのようです。ですが、このままではあちらの世界の邪悪な者達が出てきてしまいます」と寺尾が数珠を片手に拝みながら答える。

「なんだと」と落合が大声で驚く。

洋一、怯えるようにお堂を見つめる。

「美代子が、妻が、抑えてくれているはずだが…失敗したのか!?」

寺尾が洋一に詰め寄る。

「奥さんが?奥さんは何者なんですか?」

「妻は、この島の陰陽師なんです。五百年に一度オソロシドコロの扉の封印が解け、幽世からこの世に悪霊がなだれ込んできます。それを代々封じていたのは妻の家系です…」

「それで奥さんは、封じるためにあの扉にいると?」

「はい、妻は幽世で悪霊達を抑えていると思います。人柱のようなものです」

「だから、透君は奥さんを追って、あの奥に…」

寺尾、その場に座り、片手に巻かれた数珠を胸の前に構える。

「一刻も早く、透君を助けなければ」

そうゆうとすぐに寺尾はお経を唱え始める。

落合が大声で怒鳴る。

「ちょ、ちょっと勝手に始めるなよ。おい、長尾、カメラ準備しろ。田井中、照明」

長尾と田井中は慌てて準備をする。長尾はカメラを寺尾に向け、田井中は照明装置の電源をつける。

寺尾がお経を途中で止める。

「旦那さん、透君をこちらに呼びかけます。私だけの念だけでは届きません。旦那さんも透君のことを一緒に念じてください」

「は、はい」

洋一、寺尾の隣に座り、胸の前で両手を合わせて、目を瞑る。

寺尾、お経を唱えるのを再開する。

お堂の扉がガタガタと揺れ、カメラの画面にはノイズが走り、照明装置がチカチカとする。

「な、なんだ…」

田井中、後退りする。しかし、黒い手が田井中の足首を掴み、田井中は転ぶ。

「うわぁ」

「お、おい…ここで転んだら…」と落合が震え、青ざめながら声を漏らす。

田井中、恐怖し、その場で震えている。

すると、扉の奥から手が伸びてきて、田井中を引きずり込む。

「や、やだ、死にたくない」

田井中は暗闇の中に消えていった。

「こ、こんなところ入れるか。死ぬもんか」

落合と長尾は走って逃げる。

寺尾と洋一は集中し、お経を唱え、念じている。

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