ホラー短編「幽世・中編1」
暗い森の中、多くの人ならざるもの達が木の陰から覗いている。
見つめる先は木漏れ日に倒れている透。呻き声を上げながら、近づく人ならざるもの達。
一人の人ならざるものが、透に手を伸ばそうとする。
暗闇の奥から後光が差し込んだ誰かが歩いてくる。透の目の前で足が止まる。
人ならざるもの達は森の中へ逃げ込む。
「透…」
荒れ果てたリビング。食卓で顔を伏せて寝ている洋一。
窶れた顔、白髪交じりの頭。
床には、紙が落ちている。その紙には「大友透を見た人は連絡お願いします」と記載され、透の顔写真が貼られている。
静かなリビングにチャイムが鳴り響くが、洋一は顔を伏せたまま。
チャイム音が再度鳴り響く。洋一、不機嫌そうに起き上がり、インターホンに出る。
「…もしもし」
「あっ出たよ」
遠くから聞こえる如く、小さい女性の声が聞こえた。
「ごほん。私、テレビ長崎の沖田と申します」
男性の声がはっきりと話しかけてくる。
洋一、覇気がなく応える。
「テレビ局がうちに何でしょうか?」
「透くんの失踪の件でお伺いしました」
「はぁ?いたずらならお引取りくださ…」
「そう言わずに聞いてください。我々なら透くんを見つけることができます」
「はぁ…?」
膝の上で寝ている透。目を開けると美代子の優しい顔が目に入る。
「お母さん…?」
透、目に涙を溜め、美代子を強く抱きしめる。
「お母さん」
美代子、躊躇するが、透を抱きしめる。
「透、ここに来てしまったんだね…」
透、急ぐように美代子の手を掴み、手を引こうとする。
「お母さん、お家に帰ろう」
美代子、曇った表情をする。
「透、お母さんはもうお家に帰れないの…」
「どうして?」
「お母さんにはやらないといけないことがあるんだよ」
「そんなの関係ないよ、一緒に帰ろう、ね?」
美代子、首を横に振る。
透、涙を流す。
「お母さん…」
美代子、透の肩をガシッと掴む。
「お母さんはここから離れないけど、透はここに居ちゃいけない存在なんだ」
「嫌だ、お母さんと一緒にいる」
「駄目だよ、お父さんが悲しんでしまう」
美代子、目から涙が溢れる。
「お母さんの最後の願いよ、お父さんと幸せになって」
透、目を逸らす。
美代子、透の顔を両手で掴み、顔をこちらに向けさせる。
「透」
透、涙を流しながら、決心した目で頷く。
美代子、優しく微笑む。
「そうよ、お前は強い子だ。でも、会いに来てくれて嬉しかったわ」
「お母さん…」
ディレクターの落合とADの田井中、カメラマンの長尾、そして霊能者の寺尾が洋一を連れ、森の側を歩いている。
落合が寺尾ににじり寄る。
「先生、こちらの森の中ですか?」
「えー、ここです。この森は幽世と通じる穴があります。その穴に透君が取り込まれたのだとと思われます」
洋一、寺尾の肩を掴み、充血した目で迫る。
「本当にいるんですよね?透に会えるのですよね?」
「会えるかどうかはあなたの想い次第です」
「想い?」
「念じるのです、透くんと逢いたいと。そして私がその想いを透くんに届けるのです」
「本当にそれだけでいいんですか?」
「想いの強さが貴方達を引き合わせるのです」
寺尾は洋一の肩に手を置き、優しく微笑む。
洋一、目に涙を浮かべる。
寺尾、洋一から離れ、険しい顔で皆に語りかける。
「皆さん、この森はオソロシドコロと呼ばれ、神聖な場所です。普通は一般の人は踏み込んでは行けない場所。儀式は森の入口の前で行います、いいですね?」
落合が首を傾げる。
「神聖な場所というのはわかりましたが、入ったらどうなるんですか?先生」
「入ってもあることをしなければ、安全に戻ってこれます」
「やってはいけないこととは?」
「転ぶことです。転ぶと幽世に連れて行かれます」
「へぇー、そうなんですか…」
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