メモリースキャン 〜武蔵野での出会い〜

盛田雄介

第1話 メモリースキャン

 夕焼けがつくる影はいつも寂しさを感じる。

また明日も陽は昇ると誰もがそう思っているが、そんな保障などない。


 だが、私もかつては根拠の無い確信や自信を持って、前に突き進むだけの小童であった。


 きっと誰もがそうであったと思う。

若さとは爆発力だ。時に何も考えずに行動し、成功すれば儲け物。失敗しても儲け物。と何でも経験として人生の糧を積んでいった。

故に「ジッとしてるのは、勿体ない」と考えていたのが、目の前にいる幼き時代の私だ。


この私は、いつ頃のだろうか?

白い壁に包まれた病室で点滴が繋がれている湊人は、ヘッドギアを頭に装着し、脳にいくつかのケーブルを差し込んで車椅子に座っている。

 

ここは今も昔も変わらない日本の中心地、東京。

江戸時代から、政治や経済、流行を大きく左右していた場所。

刻は2100年。

車は、やっと空を飛び、ヘリコプターの廃止が開始。

また、延命治療技術が発展し、私もこの点滴を流し込む事によって生きながらえている。

だが、最も注目している技術は、脳科学の分野。

今、装着しているヘッドギアは私の脳と視覚をリンクさせ、自分でも思い出せない古い記憶を呼び起こしてくれる装着である。


延命治療を受けているとは言え、いつ朽ち果てるかは、分からない状況で、今見ておきたい事があった。

しかし、それが何かすら思い出せない。

そんなレベルの想いしかない思い出であるが、私にとって重要な事だったという感覚だけは確かにある。


「ひぃ爺ちゃん、何か見える?」

私は震える指で40歳のひ孫にそっとOKサインを出す。

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