命を厭うボクたちへ(仮)

花萌橋 遼弥

電照花と石

 - 石を鳴らせ。時は果肉を食むから。-


 群青の橋に陽光を遮られ、草木も喋らぬ場所に、小屋がぽつりと建っていた。いつまでも止まない通り雨の下、藺草を編んだ屋根には、緑や黄色、橙、紫の淡い明かりがぶら下がる、谷の底のその部屋は、電照栽培の花畑。

 ねえ、この子まだ覚めないね。十分に日は浴びたはずよ。退屈そうに声を落とした灯(あかし)が咲うように揺れる。雨音に交じって降り注ぐ無数の声が、床に飾られた硝子の棺桶と、人型のその瞼を軽く弾いた。力なくうたのような息を吐いてまだ眠りにしがみつく身体を、もう一度笑うようにして灯らはちらつきしっぽをふった。夢や心や、『××』ってそんなに大切なものなのね。なんて呆れた顔をしながら、愛しげな目をして。


 紙、というなにかに縛られていたと、ハナは話していた。石ころの肌に塗られたそれを、大切なはずのモノなのだと、白く在り可能性を編みたいのだと。でも実は、気がついたときには電子の粒を踏みしめて踊っていて、そのことを知ったのは随分あとのことだった。それは脆弱なもので、こころよりも本当であること以外は全部、ウソのカタチをしていた。だから、ずっと求めていたものは見つかるはずがなかったのだ。探していた、などではなく存在の否定を繰り返して色褪せていくそれを、この身とこすり合わせて、火花や電気、もしくは生命、「こころ」などが生まれないか、喉元を掻っ切るように叫んでいた、そういう息のひとかけに過ぎない。

 ふと、透かすような陽射しの海が目の前に広がっている。ボクが生まれた海に似た、暖かい、深い藍だ。波に揺すられているようで、少し、水面を舞うようで。いずれ沈むだろう、ボクは共に産まれた花のように軽くはないし、海にはなれない。それならば、だからこそ、ボクは弾かれ鳴り続けなければならない。いくら削られ、ハナに成り、実を宿せど。そうして、夢の底から浮かび上がっていくのだった。


 オハヨウ。おはよう。灯らはやっと起きてきた主をバカにするようにくるくると回っている。やっと咲いたそれを蹴飛ばすようにコツンと触れたり、また時々、手を引くように指先に纏わりついたり。それを見た主は満足気に笑い、体を起こした。花の結晶が音を鳴らす。ボクらはちいさな粒だった、再び生まれたこの瞬間も。溶けるように空に浮かんだハナは、灯のひとつへと。元いた場所には、そっくりの見た目をした種がねそべっていた。


 どうぞ、よろしく。

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命を厭うボクたちへ(仮) 花萌橋 遼弥 @harukami_kamoehashi_310

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