第10話 ひとつとなりしもの、パッシブコード;『はてしない物語』、CAMP、あるいは外1

 そのときアウリンがはたらいた。

 3人はその場にすでにいたかのように魔法の薪を囲んで簡易式の野営をしていた。

 すぐさまカオルが弾かれて現状確認をする。


 ホウが死んだ。

 正確には、削除された物語に取り残された。

 入り口をくぐってすぐだ。

 それ自体が強制改頁だと気づくのに、語り手たるわたしも出遅れてしまった。

 紡ぎ直すことも、足すこともままならず、こうしてぎりぎり許される範囲で続けている。

 実は体裁を崩した語りは物語としてのまとまりがなくなり、読み手も試みとして受け取ってしまって、安定感がない。

 すでにタイトルからして、介入してしまっているので、ここは割り切り、例外が許される“CAMP、あるいは外“とすることにより、なんとかつなぎとめた。この物語は大事なのですぐ閉じ、1としておく。

 いわば物語のスキマだ。物語的にも、ここではありうる。

 それにしてももう『はてしない物語』が発動するとは。それほど切迫していたのだろう。

 感触からしててっきり『ダンジョンズ&ドラゴンズ』と『指輪物語』のセットあたりだと睨んでいたのだが、巧妙に編み込まれていたのか本筋(ほんとうの物語)が隠されているのか、釈然としないがその物語がわたしたちを丸ごと消そうとしたのだろう。

「カオル、あなたはじまり頃から選ばれているひとりでしょう、いわば存在の格から言えば蕃神じゃない。こんなことってありうるの」

 女魔法使いオオカミは余裕を失い、焦りの滲み出る苦々しさが出ていた。

 考えつつ、

「神っていうのは一番上、全知全能、と断定できない。あまりにも幅がありすぎるんだ。ほんとうは名付けられないのに無理くりしているしね。並び立たれたりもするし。だからわたしはそう名乗っていないし、それこそただのカオルで臨んだんだ。“ひとつとなりしもの“、いい名付けだと思うよ、なんにでもなれるもの。それに偉大さもあるし」

『聖書』を眩しく思い出していた。

「どうするの」

「わたしたちは軍隊でいうところの特殊部隊と同じだ。現場の変化に直に触れ、有利になるよう、柔らかく的確に対処していく。ミリタリーを入れておいてよかったよ、やはり人間は戦いになると別格だな。こういうときはありがたい。なに、戦術だけ振るっていれば問題ない。戦略面に関しては」

 任せてある。

 それにそろそろホウがやってくる頃だ。

「同じ手、類似手は通じないと考えるだろうから、奇手はもう封じた。なに、もっとひどい物語もあったよ。言葉やモノ、ものが徐々に消えていったり、ハイパーテキスト、ゲームブックだったり」

 物語論や脱構築での苦々しい思い出が蘇る。

「難しいのはお互い避けるのかしらね」

「かたすぎたり、哲学書、宗教書だね、やわらかすぎ、あいまいすぎてもいけない。絵本は意外と鬼門だな」

 懐かしむように、

「物語船や物語車、物語使いや物語団が行き交って、交響してたのが最もいと高き時代だったんだなあ」

 どこでどう間違えてしまったのか。

 ともかくわたしはわたしのできる、をするまでだ。


 みんな一通り確認すると、『はてしない物語』を閉じた。



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