伝えたかったこと
「タケル!」
「っ!」
屋敷に侵入し、声に思わず足を止めて振り返ったタケルは、遂に美月との再開を果たす。
互いに目を見合わせるが、何を話せば良いのか分からず、固まっていた。しかし、
「タケル。ありがとう」
「え?」
美月の言葉に、タケルだけじゃなく、同行していた魔実もポカンとしてしまった。
「杖島先輩たちから聞いたの。この世界に来る時、勇者の力と、自分の力。あと望んだ力が貰えるって。その時きづいたんだ。タケルが意識不明になった直後にレイジが急に倒れて、目を覚まさなくなった。タケルがしてくれたんだって」
タケルが願った事。それはレイジをこちらの世界に呼び寄せる力。言うなれば、レイジ限定の召喚能力だ。
「そうです。それがタケルさんが願った力です」
「ウジャマルラさん!?」
「タケルさんの身の上は、お誘いする際に知っておりました。そして彼が、どうすれば美月さんをお救いできるかをずっと考えていたことも」
「だから勇者にしたの?」
魔実の問いに、ウジャマルラは頷く。
「それにしてもまさか、貴方が……いや、勇誠さんが世界を行き来する力を選んでいたとは思いませんでした」
「それで、ウジャマルラさんは何しにきたの?」
魔実は前に出てウジャマルラを見ると、
「見届けに来ました」
「見届けに?」
「はい。最初私は、レイジさんをこちらにつれてくれば、タケルさんの望みが叶うと思っていました。ですが、タケルさんと接する内に、これは彼のためにならないと理解したのです」
彼女達の考える幸せが、人間の幸せとは限らない。悪意があるわけじゃないが、価値観が違う。
最初は、勇者として誰を見出すかでウジャマルラは悩んでいた。勿論強い人間を選んだほうが良い。そう思っていた所、偶然タケルを見つけた。
余りに悲しそうで、辛そうだった彼を見て、ウジャマルラはオルトバニアに居場所を与えようと思い、過去を見て、誘ったのだ。ついでにレイジを連れて行く方法も添えて。
しかしウジャマルラは、タケルと出会い、そして接する中で、本当にするべきことを自分で見出していた。
「だからタケルさん。もう一度、考えてください」
「僕は……」
タケルが口籠った時、
「おいタケル!何時まで時間かけてんだ!」
乗り込んできたレイジに、タケルと美月の体が強張る。それを見たレイジは、
「おいおい美月。こっちまで追い掛けてくるなんて。そんなに俺のが恋しかったのか?」
ゲラゲラ笑うレイジに、魔実は嫌悪感を隠そうとはせず、レイジを見ていたが、
「待てよ」
「あ?」
その後ろから、勇誠がやってきて木刀を構える。
「まだやんのかよ。しつけぇな」
足止めのために勇誠はレイジと対峙したが、結果は敗北。だが死んではいなかったので、一度戻って、またオルトバニアまで来てここにいる。お陰で怪我は治ってる。
「死ねやおらぁ!」
レイジは振り返り様に殴ると、勇誠は木刀で防ぐが、ガード上ごと吹き飛ばされた。
「気をつけてください!彼の力はバーサーカー。怒れば怒るほど力が増します!」
「それ早めに頼むわ」
受け身は取ったが、手が痺れる感覚に、勇誠は息を吐く。
いつものように剣道の構えを取り、レイジを見据えると、
「メェエエエン!」
突っ込み振り下ろす。レイジはそれを避け、拳を振り上げた。
「くっ!」
勇誠は横に跳んで避け、木刀の横薙ぎ、だがレイジは前に突っ込み、勇誠の顔面に頭突きを叩き込む。
「っ!」
鼻血を出しながら、後退り勇誠は木刀を手に突っ込む。
レイジの振りかぶった拳を木刀の切っ先で叩き落とし、
「メェエエエン!」
「っ!」
今度こそ額を捉えた一撃をすれ違いざまに叩き込みながら振り返り、残心しながら木刀を構え直す。
「タケル!」
「っ!」
勇誠は、タケルに声を掛けると、
「俺もな。すげぇ怖い」
「え?」
「痛いのは嫌だし苦しいのは嫌だ。でもな、もっと嫌なことがある。それが大事な人が悲しそうな顔をしてることだ。だから俺は戦うんだよ!」
タケルにそう伝えると、勇誠は再度レイジに向かって走り出した。
そして再び、タケルと美月は見合う。
久々にちゃんと見た美月の顔は、驚くほどやつれて、廃れている。
元々は、健康的で快活な幼馴染。それが今では見る影もない。
「タケルの顔。久し振りにちゃんと見た」
「うん」
美月の言葉に、タケルは静かに頷く。
「私ね。汚れちゃったんだ」
「……」
その言葉に、タケルは何も返せない。
「レイジに沢山抱かれたの。嫌だったけど、そうすればタケルに手は出さないって言われたから。そしたらだんだんエスカレーターして、色んな人にされたり、録画されて売られたり、そしたら妊娠しちゃった」
ポロポロと、美月は泣いていた。悲しそうで、タケルの胸が締め付けられる。
「もう私ね。ダメなんだ。何もかも無かったことにしたいんだ」
自分のせいだった。戦う方法だってあった筈だ。守る方法だってあったはずだ。でも逃げ出して、彼女が何も言わないのを良い事に見ないふりをした。
その結末が、何物にも代えがたい幼馴染を壊したのだ。
だが美月は、それでもタケルに優しかった。恨み節なんか無い。ただ事実を淡々と伝える。それだけだ。
だからこそ、タケルの心は更に締め付けられる。
すると美月は言葉を止めた。これは、何かを伝えたいときの顔だ。我慢してたことを言おうとしている時の顔。
そして美月が発した言葉は、
「助けて」
「っ!」
たったそれだけの言葉。
美月がずっと言いたかった言葉。
タケルが聞くのを怖がった言葉。
文字数にしてたった四文字の言葉。
だがそれは、タケルの足を動かし、
「おらぁ!」
振りかぶったレイジは拳を勇誠に振り下ろす。すると二人の間に入ったタケルがそれを止め、
「なに?」
「おぉおおおおお!」
タケルの一撃が、レイジの腹部に突き刺さった。
「がはっ!」
レイジは口からゲロを吐きながら転がり、
「タケルてめぇ!」
「はぁ、はぁ」
膝が震える。口が乾く。自分がやったことが恐ろしくて仕方がない。だが勇誠はタケルの方に手を置き、
「ナイスパンチ!」
ニッと笑ってサムズアップをしてきた。それを見たタケルも、思わず笑う。
「そんじゃ一緒に行きますか」
「はい!」
勇誠は木刀を構え、タケルは拳を握ると、
「ぶっ殺してやる」
レイジの圧が更に強まる。
「私も援護する」
魔実も杖を構えてこっちに来てくれ、
「それじゃあ戦闘開始だ!」
勇誠の叫びと同時に、飛び掛かるのだった。
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