力
「はぁあああああ!」
タケルの大振りな拳が勇誠に振り下ろされる。それを勇誠は横の飛んで避けると、タケルの拳が壁に叩きつけられ、壁がガラガラと崩れ落ちる。
(あれは……)
勇誠は崩れた壁を見つつ、目を細めた。石製の壁を素手で壊すのは確かに凄いが、先日ギルド支部内で見た一撃はもっとすさまじかった。勿論手加減の可能性も考えたが、今の感じではそういうのはない。本気できている。
(何かの条件があるのか?)
そもそもタケルの能力は、転生時に貰える勇者の身体能力以外わかってない。先日の淳のようにベラベラ話してくれれば分かりやすいが、そこまで優しくはないようだ。
(だが条件があるとして何が条件なんだ?)
最初から様子見と言う感じではないだろう。だがこのまま逃げ続けても勝てない。
「メェン!」
そう判断した勇誠は、後ろに下がってから構え直し、踏み込みながらタケルに面打ち。しかしタケルはそれを片腕で防いだ。
(マジか!?)
真剣でなく木刀とは言え、それを腕で防ぐとか正気か?と勇誠は驚きつついると、タケルはもう一方の手で勇誠の腹を殴る。
こんな密着状態のため、腰の入ってない、素人パンチだ。いくら勇者の身体能力があるとは言え、効くわけがない。筈だったが、
「っ!」
タケルの拳が当たった瞬間、全身がバラバラになるような衝撃が勇誠を襲い、そのまま横に吹っ飛んで、壁に叩きつけられた。
「あ……がはっ」
頭から突っ込んだせいで、視界がグルグルする。更に額を生暖かい物が伝う感触に、咄嗟に指でそれを拭うと、血だった。
「いってぇ」
勇誠はぼやきつつ、手の甲で額を伝う血を拭いながら立ち上がる。
「嘘だろ……」
タケルは信じられないものを見るような目をした。今までタケルの一撃をまともに喰らって立ち上がったものはいない。
少なくとも、頭から血を流しながらふらつきつつも、立ち上がってくる人間はいなかった。
「ちぃ!」
タケルの拳が勇誠の顔に刺さる。
「ぶっ!」
モロに顔面に喰らった勇誠は、ドロッとした鼻血が逆流して喉の奥に詰まる不快な感覚。
「はぁ!」
「ごふっ!」
そこに今度はボディーブローを入れられ、勇誠の胃の中が逆流してくる。
そして続けざまにタケルは拳を握り直し、渾身のアッパー……と言うよりは、ただの拳を下から上に振り上げる動作に近いのだが、それでもまともに喰らったら勇者の身体能力もあり、かなり痛そうだ。しかし勇誠は、
「がぁ!」
咄嗟に木刀を横に振り、それがタケルの脇腹を打つ。
「ぐっ!」
それに対して、タケルは明らかに苦しそうな表情を浮かべた。
(効いたのか!?)
先程の木刀の一撃は、タケルに腕で止められた。しかし今度が普通に聞いている。
そう言えば、あの異常な破壊力の一撃もパンチだ。となると、あの腕に何かしらの秘密があるのかもしれない。そうとなれば、
「メェン!」
「っ!」
勇誠は木刀を振り上げながら、気合いを込めて木刀を握る。それを見たタケルは咄嗟に両腕を交差させ、防御しようとするものの、
「ドォオオオオオ!」
「ひぎっ!」
振り上げた木刀を、素早く下ろして胴打ちの構えとなった勇誠は、そのまま素早く胴を打つ。
それにより、タケルは余りの激痛に冷や汗をダラダラと流しながら、その場に膝をついた。
「腕じゃなきゃ木刀は防げねぇってところか?」
最初は異常な頑強さでも能力なのかと思ったが、そう言うわけではないらしい。そもそもそれなら、レイジの腹パンも平気だったはずだ。
しかしあのときは確かに効いていた。つまりこいつの能力は、腕に限定されていると言うところだろう。
すると、
「だぁ!」
蹲ったタケルが、転がったまま蹴りを出してきた。それを勇誠は横に飛んで避け、タケルも素早く立ち上がり、こちらにタックルを仕掛けてくる。
「くっ!」
そのままタケルは、勇誠の腰に抱きつくようにタックルを決め、そのまま持ち上げると、勇誠を持ったまま壁に向かってダッシュ。
「離せ!」
勇誠はさせまいと木刀の柄尻で頭を殴る。だが、
(効いてない!?まさかこいつ!)
「頭は……喰らうのが怖いから防御してただけだ!」
と言い、そのままタケルは勇誠を壁に叩きつけた。
「ごほっ……」
「はぁ!」
壁に叩き付けられ、勇誠は、肺から空気を吐き出すと、タケルは勇誠を離して、脚を大きく後ろに振り上げると、
「これで……」
そのまま一気に前方に振り上げた。
「終わりだぁあああああああ!」
「っ!」
グシャ!と言う嫌な感触と共に、勇誠の下半身に衝撃が走る。そして遅れて激痛……いや、最早痛みとかそう言う次元ではない。勇誠の中で何もかもが崩れていくような、そんな感覚だ。惇もこんな気分だったのだろうか……そんな事を思いながら、勇誠は苦しみと同時に沸き上がる吐き気に思わず呻くが、
「っ!なんで……」
タケルは思わず呟いた。確かに金的を潰した。渾身のパンチだって入れてる。なのに勇誠は、
「うぉおおおお!」
木刀を握って構え、
「どぉおおおおお!」
「あがっ!」
バキィ!とタケルの脇腹を木刀で叩く。更に、
「どお!どお!どお!どお!どお!どお!どお!どお!どお!どお!どぉおおお!」
連続して左右から胴を打ち、タケルが怯んだところに、勇誠は腰を落として、
「突きぃいいいいいい!」
「ごぶ!」
鳩尾に勇誠の木刀が深々と刺さり、タケルは後ろに吹っ飛ばされていった。
「はぁ、うぐぅ」
しかし勇誠も痛みと吐き気でその場に倒れてしまう。
「が……い、ぐぐ」
呻き声を上げ、丸くなって痛みに必死に耐えていると、
「はぁ、はぁ。くそ!」
「ま、待て!」
タケルはふらつきつつも立ち上がり、そのまま背を向けて走り去ってしまった。
「タケル!美月はずっと苦しんでる!助けてって言ってるんだ!少しくらい根性見せやがれ!」
「っ!」
それでも勇誠は叫ぶものの、タケルの足は止まることはなく、姿は見えなくなってしまう。
「ぐぅ……いてぇ。あの野郎思いっきり蹴りあげやがった」
勇誠は悪態をつきつつも、
(とにかく一旦元の世界に戻れば治るはず)
と勇誠は判断し、すぐさま転移。そして、
「へゃ!」
部屋のベットの上で跳ね起きた勇誠は、咄嗟にズボンの中に手を入れ、
「良かった。付いてる……」
とひと安心。したものの、
「お兄ちゃん今凄い声してたけどだいじょう……ぶ?」
そこに入ってきたのは勇女。そしてその視線の先には、自分の兄がズボンの中(というか股間の辺り)に手を突っ込んで、モゾモゾと手を動かす姿。その光景に勇女は耳まで赤くして、
「ご、ごめんねごゆっくり!」
「え?あ!ちちちがう!誤解だ勇女!」
そんなわけで、勇女の誤解を解くために、小一時間ほど掛かったのだが、それはまぁ余談である。
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