逃亡

「ふむ」


勇女とクルルーラが、自分の部屋でドッタンバッタン大騒ぎしながら大暴れして、大乱闘してた頃、勇誠はまた異世界・オルトバニアの地に降り立っていた。とは言え前回とは違い服は普通の服だ。異世界において勇誠の世界の服が普通かは置いておくが。


とは言え、


「またいきなりこの世界に放り出されてもどうするか……」


魔王がどうこう言っていたが、いきなり魔王に会いに行っても仕方がない。と言うかそもそも勝てる訳がない。もっと言うなら、どこにいるのかすら分かっていない。序でに武器も実力もない。なので、


「まぁ、歩くか」


取り敢えず歩く。ソレしかないのが実情だった。まず街に出なければならないのだ。クルルーラの言葉から察するにどこかに街がある筈。個人的には街中とまでは言わないが、せめてこんな日の光が届かない程、深くて暗い森に放り出すと言うのは、如何なものだろう。


「ん?」


何て思っていると、目の前に透明な液体と言うか、ぶよぶよとした緩い粘土みたいな、だが動き的に、意思をもっているらしき生物のようなものがウネウネしながら現れる。


「もしやこれはあの日本どころか世界でも有名なモンスター。スライムでは?」


スライムと言えば、あの国民的RPGの雑魚キャラであり、派生シリーズでは主人公を務めるアレを思い出すが、見た目は似ても似つかない。とは言え、見た目的にそんなに強そうじゃない。とは言え今は武器もないので、


「まぁ取り敢えずスルー一択かな」


と勇誠はそのままスルーしようと向きを変えたその時、


「げっ!」


スライムは、迷わず勇誠に向かって飛びかかってきた。それを慌てつつも、何とかギリギリで避けるが、スライムが木にぶつかると、体の破片があちこちに四散。その一部が勇誠の服の袖につくと、


「うわっ!」


勇誠が悲鳴をあげるのも仕方がない。なにせ、スライムの破片がついた部分が、シュウシュウと嫌な音と煙を立て、凄い速さで服が溶かし始めたのだ。


「嘘だろ!たまにこういうの見るけど、野郎の服溶けシーン何て誰が喜ぶんだよ!」


こう言うのは、かわいい女の子がやるイベントじゃねぇと、なんてふざけたことを考えてる間に、


「いっでぇ!」


思わず反射的に手で払ってしまい、そのせいで手からまでシュウシュウと音と煙が出始めて、激痛が走るのと同時に、手の皮膚が溶けて血が出てきた。


「ヤベヤベ!」


挙げ句にパニックになりながら、今度はズボンで拭おうとしてズボンまで溶けてきて、もう何が何やら状態のまま、炎磨は思わず走り出す。方向なんてわからないが、とにかく走る。


とにかくここのスライムはヤバイ。しかし、スライムは身を縮めてから一気に伸ばすと、その反動を利用して、そのまま木の間を素早く抜けながら、こちらを追いかけてくる。


「意外と速いなおい!」


だが悪いことばかりじゃない。こうして走って気づいたが、自分の走る速さも、何時も以上に速く、そして疲れない。これは助かったと思いつつ走っていると、川が見えてきて、


「っ!」


思わずそのまま飛び込んで、全力クロールで、大急ぎで泳いで反対の岸まで行く、その間手が滅茶苦茶滲みて痛かったが、こっちは命がかかってるのだと、気にすることなくザブザブ泳いで、今なら世界を狙える(※狙えません)んじゃないか、って言うくらいのスピードで行って振り替えると、スライムが向こう岸で立ち往生していた。どうやら泳げないらしい。


「はっはっはー!なんだ泳げないのかスライムさんよぉ!」


水で結果的に洗い流せたのもあり、スライムの破片で服が溶けていたのも収まり、手も皮が剥けて結構グロテスクな状態になっているものの、これ以上悪化することはなさそうだ。


「しかしこれからどうするかな……ん?」


一先ず安心。と思いながら勇誠が思案していると、スライムがグネグネ動いて、ブチュっとスライムが音を立てながら二つに別れ、その半分がこっちの岸まで飛んできた。


「……嘘じゃん!」


慌てて踵を返し、またもや勇誠は全力疾走。それをサイズが半分程度になったスライムが、こっちも全力で追い掛けてくる。しかも、


「げっ!狼!?」


明らかにサイズが可笑しい巨大狼や、


「蜘蛛の大群!?」


吐く糸で木を泥々にしていく巨大蜘蛛の大群まで出てきて、


「極めつけにドラゴンかよ!」


二足歩行で走ってくるモンスターまで追ってくる。因みにこれはドラゴンの中でも小さくて空を飛べない代わりに、走るのが速いタイプで数が多い。身体能力が上がった今の状態でも、木の間を走り抜け、他の連中とぎゅうぎゅうにしながら逃げてるのでどうにかなっているだけだ。


「これRPGだったら鬼畜過ぎてクソゲー認定ものじゃねぇか!」


そう叫びながらひたすら走り続け、何であいつら種族違うのに俺だけ狙うんだ?と思う。


まぁ、これは単純に勇誠が一番弱いと思われているからなのだが……


すると、


「え?」


勇誠の目の前に、ヒョコっと木の影から顔を覗かせたのは、7・8歳前後の女の子。金髪のフワフワした髪に、クリっとしたかわいらしい目。純真無垢と言う言葉が似合いそうな、まだ世俗に染まってないオーラ。ってそんなことを考えている(思考時間凡そ0.3秒)場合じゃなかった!


「こっちだ!」

「あ……」


勇誠はその少女を咄嗟に抱き上げると、そのまま少女を連れて、ヒィヒィ言いながらも走り出す。


「お嬢ちゃん何でこんなところに!?」

「えぇと……なんでだっけ?」


何でだっけじゃないだろと思うが、何やら訳ありなのだろうか?少なくともこんな子供が、一人でこんな森を彷徨くのは、普通ではない。


「お父さんやお母さんは?」

「居ない。知らない」


居ないだけじゃなく知らないと来たか……何やら更に厄介な感じだ。何でここにいるのかわからず、お父さんやお母さんと言った親御さんも分からない。何がどうなってんだ一体。


と勇誠が心の中でぼやいていると、体重が軽すぎる少女に話し掛けられた。


「ねぇお兄ちゃん。私と一緒だと危ないよ?」

「あ?だけど置いてく訳にいかないでしょ!」


そう。見捨てるわけにはいかない。確かに一人で走ってても大変なのに、幾ら羽のように軽いとは言え、人一人抱えて走るのは、かなり危険だ。だがだからと言って、こんな小さな子供を見捨てて逃げて、ソレで万が一助かったとしても、後味が悪いことこの上ない。そしてそんなことをすればあいつらに会わせる顔がない。


勇誠は、そう言って笑いながら、足に力を込めて速度を上げようとした瞬間。


「あ、どっか行っちゃった」

「え?」


突然物音が消え、勇誠は何かあったのかと、慌てて振り替えると、さっきまで大勢いたモンスター達は、何故かいきなり踵を返して走っていってしまった。


「な、なんだ?」


テリトリーの外に出たのか?訳がわからずも、取り合えずそう思うことで自信を納得させて、勇誠は少女を地面に下ろしてからしゃがんで目線を合わせる。


「初めまして。俺は鶴城 勇誠。えぇと……お嬢ちゃんの名前は?」

「フラメだよ」


改めてみても、キラキラと日の光が入らないこんな森でも光るほど、きれいな金髪のブロンド。更に肌は透けて見えそうな程白いが、その見た目に反して来ている服はぼろっちぃ。


「じゃあフラメちゃん。君はどこから来たんだ?」


取り合えず改めて聞いてみる。さっきはあんな状況だったので、ああ答えただけで、落ち着いて話してみればもしかしたらちゃんと答えてくれるかもしれない。


しかし、んー?とフラメと名乗った少女は少し考えた後、


「分かんない。気付いたらここにいたの」

「お父さんやお母さんは?」


だから知らない。と答えられてしない、勇誠はガックシと肩を落とす。これはやっぱり、もしかしなくても凄く複雑な家庭環境的なやつなのだろうか?でも見た感じそういう風にはみえないが……いやこう言うのは見た目で判断してはいけない。敢えて明るく見せている可能性がある。何て思いつつ、


「じゃあフラメちゃん。フラメちゃんは何処かに行くあてはあるの?」

「勇誠お兄ちゃんと一緒に行く」


えぇ、と勇誠は半眼になる。一緒にと言っても、本来の世界とオルトバニアを行き来するのだから正直難しい。特に幼い子供だ。オルトバニアにいる間はともかく、本来の世界に帰っている間面倒が見れない……だが両親を聞いたときに、それが嘘であれホントであれ、知らないと答える少女(7、8歳前後)を放っておくのも、人としてどうだろうとも思う。


「うぅん……でもなぁ」


さて困ったものだ。どうしたものかと頭を悩ませていたその時、


「そうだ。クルルーラさんならなにか思い付くかも」


と思い至った。我ながら中々に妙案だ。正直、ちょっと役に立つか微妙な人選な気もするが、それでもこのオルトバニア関連に関しては、自分以上に理解している人だ。何かしらの知恵を出してくれるだろう。


なら思い立ったらすぐ行動だ。


「良いかフラメちゃん

「フラメでいいよ」

「そ、そうか?じゃあフラメ。少しここで待っててくれ、ちょっとお兄ちゃんは、ある人に知恵を借りに行ってくるから。出来るだけ急いで戻るようにする。安心してくれ」

「うーん。じゃあお兄ちゃん。手を貸して」


手?と何で手が必要なのかと疑問に思いつつも、別にソレくらいならお安いご用だ。


勇誠は大人しく右手を差し出すと、フラメは勇誠の手を両手で包み、何やら祈りながらギュッと手を強く握って(子供のパワーなので、大したことはないのだが)くる。


「うん。ありがと。これで一緒にいられるね」

「え?あ、うん」


何をいっているのか分からないが、取り敢えず転移して元の世界に飛ぶ。因みに前回確認したのだが、基本的にオルトバニアに行く時も、元の世界に帰ってくるときも、出入りした場所と同じ場所に出るらしい。ただし、オルトバニアに出るときのみ、ある程度イメージしておけば、多少出る場所をずらして転移できる様だ。


「んぁ!」


そして、転移して飛んだ次の瞬間。ガバッと勇誠は体を起こし、首を左右に振って、周りの状況を確認。元の世界に戻ってきたようだ。そしてカーテンを見ると、既にカーテンからは日が射している。もう大分もう明るいようだと思いながら、時計を見てみると既に朝の8時。暗い森の中を走り回っていたとは言え、オルトバニアは既に夜だったらしい。追いかけられっぱなしだったとは言え、合間合間で一瞬追跡を振り切って休憩はとれていたし。


まぁ直ぐに見つかって追い掛けられるのだが……って言うか!


「遅刻じゃねぇか!いっつ!」


勇誠は跳ね起きて大急ぎで掛けてあった制服を着ると、掌は綺麗なのに何故か痛む頬を抑えながら部屋を出て、リビングに駆け足で行く。何時もなら魔実や勇女が起こしてくれるのだが、今日はないようだ。何かあったのか?等と思いながら扉を開けると、


「勇女!悪い寝坊したから朝飯いらな……」

「てめぇ勇誠に何しやがったぁ!」

「違うんです誤解なんですお助けぇ!そしてヒモが体に喰い混んで痛い!」


リビングに入ると、何故か逆さ吊りにされたクルルーラを、複数人の女子が取り囲んで尋問している光景があった。


「ん?あぁ!兄ちゃん!」

『え!?』


女子達(見てみれば、みんな知った顔だ)はこっちを振り替えると、皆はクルルーラを放置してこっちに走ってきた。


「大丈夫か!?お前俺が何回叩いても目が覚めねぇし心配したんだぞ!?」

「ま、待て空。何で我が家に全員大集合してるんだ?朝っぱらから」


昨日の夜勇女ちゃんから電話があったのよ、と魔実は言い、


「何か変な女があなたの部屋にいたから捕まえたんだけど、今度はお兄ちゃんが呼んでも叩いても起きなくなったって。それで昨日のうちに私は来て、その変な女を尻目に起こせないかやってみたんだけど起きなくてね。それで他の皆も朝に電話して呼んだわ」


通りで何か頬が痛いと思ったが、そう言うことかと勇誠が思っていると、


「良かった。勇誠君が無事そうで」

「えぇ、自分の事を神様見習いとか言う、頭の可笑しい女性もいますし」


取り敢えず警察ですわね。と前に出たのは弓柄ゆみづか 美矢みや。スレンダーなボディと、腰まで伸びた長い黒髪。切れ目の美人で、実家は日本でトップ3に入る程のお金持ち。そんな彼女は、東桜高校の生徒会長と弓道部の部長を務めて、現在は大学に通っている。


「そ、その方がいいね」


と言うのは白閖しらゆり 癒羅ゆら。少し気弱で人見知りな所があるが、読書が好きで優しく癒し系な女性だ。高校時代は地味な感じだったが、大学生になってからは化粧を覚え、すっかり垢抜けた雰囲気になっている。因みに余談だが……本当に余談だが、一番胸が大きい。


「ま、待ってください!ほら勇誠さん!事情説明してくださいよ!」

「やはり知り合い何ですか?」


涙目で訴えてくるクルルーラを見てから、刹樹が勇誠を見てきた。


「うん……まぁ俺に面倒事を持ってきてくれる人って感じかな」

「ほう」


なんて、そんなやり取りをしている間に、


「つうかなんだこの仮装は……取ってやる!」

「いだだだだだ!ちょちょちょ!翼は着脱不可ですよ!ちょっと!頭の輪も引っ張れると首ごと持っていかれますので!」


グィーっと空が翼と天使の輪っかを引っ張り、クルルーラは泣きながら悲鳴を上げる中。


「それで?どう言うことな訳?」

「それは……」


魔実に聞かれ、勇誠はカクカクシカジカと説明する。皆はクルルーラから勇誠に意識を移し、黙って聞いていて最後に、


「ふむ……異世界ね」

「信じられないだろ?」


別に?何か悩んでたのは気づいてたから。と魔実が言うと、空と刹樹や癒羅に美矢も頷いて同意する。


「それで勇誠を暫く目覚めさせなくしようとしたのが、そこで逆さ釣りになっている、クルルーラって言う女性と言うことね?」

「ね?ね?わかったでしょ?私怪しくないですよ!?寧ろ神候補生なんで高尚な存在ですよ!」


いや怪しい奴なのは変わりないけど……と言いつつ魔実はクルルーラの元に行き、にっこりと笑みを浮かべた。


「でもすこーし怒ってるかな。私ね、やっと勇誠とそういう関係に17年越しになったの。なのにそれを邪魔されかけてたなんて……さぁ?」

「ヒィ!」


クルルーラが思わずビビる程の迫力で魔実は見下ろす。顔は笑ってるが、明らかに笑っていない。そんな迫力がある表情に、後ろにいた勇誠たちまでビビってくる。


「それでこれからどうするんですか?」

「どうするって?」


まさか受験が今年あるのに、このよくわからない人からの要請で、異世界まで行って魔王退治とやらに協力する気ですか?って話です。と言う刹樹に、勇誠はそれも考えたんだが……と口ごもっていると、


「どーせお前のことだ。泣いてすがられて、どうかお願いします助けてくださいってされて、そのままズルズル流されてるんだろ?」

「空……お前武術以外に超能力もつかえたのか?」


それくらい長い付き合いだ。直ぐに分かるっつうの。と空は言い、


「正直言って勇誠さん。貴方にそんな余裕はあるんですの?大学は今の偏差値では足りませんわよ?」

「はい……」


美矢に勇誠は頷くしかない。一応勇誠の名誉のために言っておくと、勇誠の学力は並である。寧ろ最近は美矢と癒羅の厳しい指導のお陰で、偏差値がグングンあがってるくらいだ。だが勇誠が目指す大学は、日本でもかなり難関の大学で、難易度で言うとトップ3圏内。と言うのも、皆と付き合うと言うのを決めたとき、一番の問題は親だ。


まぁ当然の反応なのだが、両親達からは大反対。唯一のんびりと凄いわね~、って言ってくれたのは、魔実の母親くらいなもの。父親達からは美矢の父を除き、ボコボコにされるし、自分の両親はもう泣いて謝り倒してた。


しかしそんな混沌とした状況を止めたのは、ずっと黙っていた美矢の父だ。


彼女の父は言った。確かに勇誠のやろうとしていることは、世間一般で考えて許されないことだと。


だが同時に、


「彼には感謝する部分もある。我が家はどうしても夫婦揃って仕事に忙しく、無意識のうちに期待を背負わせて常に肩に力を入れさせて、笑わなくなっていた娘が笑うようになった」


それに関しては、それぞれの両親が思うところがあったらしい。別に両親達に問題があった訳じゃない。ただ不幸が重なったり、彼女達自身で様々な出来事があって、それぞれ問題を抱えていた。それを一つずつ偶然その機会があった、勇誠が解決しただけ。


問題だけじゃない。普段の生活の中でも、勇誠は少しずつ皆から信頼を得ていき、それが最終的に全部芽吹いてしまった。挙げ句皆からそれぞれ告白され、一人だけが選べず全員と付き合う、なんて言う選択肢を選んだわけだ。


お陰で彼女達からも最初非難と一緒にボコボコにされるし、紆余曲折を経て、改めて父親達からもボコボコにされたわけだが……


特に空の父親の拳(あの人類最強なのでは疑惑がある、空の父親なので、その破壊力は推して知るべし)はガチであの世に意識が飛ぶかと思った。


ってなわけで美矢の父曰く、


「とりあえずそれぞれの家庭で話し合いをするべきかと。今は全員頭に血が上っているだろうから、一旦落ち着いてから話し合いをして決めるた方がいいのでは?」


そう言われて、それぞれ皆は家に戻り、話し合い(と言うかほぼ大喧嘩)が行われたそうだ。


勇誠の家でも勿論家族会議で、勇女が元々知っていたのも含めて、クラクラするほど怒られ、父親に改めてぶん殴られた。


何故こんなことをしたんだと、母親には泣かれて申し訳ない気持ちにもさせられた。


でもそれでも、皆好きになってしまった。皆からそれぞれ告白され、自分が誰か一人を選べば、それは他の選ばれなかった人を傷つける。


傷つけても一人を選ぶのが普通なのはわかってる。だが、それでも自分は誰かじゃなく、皆を選びたかった。誰も傷つけない道を選びたかった。高校二年になって、きっと代わり映えのしない毎日になるはずだった。だが皆と出会い、様々な出来事に巻き込まれたり解決したり、大変だったけど、忘れられない大切なものになった。それをこれからもそんな大切な思い出を作っていきたいのだ。


「例え何て言われても、俺は皆と居たい」


そう勇誠は両親に伝え、両親は最終的には勝手にしろと言ってまた仕事で出掛けてしまった。元々出張が多い人たちだったが、ソレだけじゃない。多分受け入れられないんだろう。勇女には大丈夫かと心配されたが、暫くは距離を取るしかないと思っている。


他の家もそんな半分くらいはそんな感じだったらしく、各人の話し合いの末取り敢えず様子見としてくれたのが、魔実の父。母親の方は当人たちの問題を親が口を出してもねと言うスタンスらしい。


そして次は父子家庭の空の父。と言うか、空の父は空と道場で大喧嘩の末、決闘に発展。見事に空が打ち倒し、自由を得たらしい。色々突っ込みたいが、あの家では勝ったものの言葉は絶対とのこと。


そして最後が美矢の父。ただしこっちには条件があり、それは美矢の実家。つまり弓柄グループを最終的には継ぐことらしい。と言うのも、美矢は唯一の子供なので、 夫となり弓柄家を引き継いで欲しいとのこと。勿論そのためには、今現在目指している大学を出て、会社のイロハを学んで貰うが、そうすれば少なくとも金には困らないだろう。そう言いながら美矢の父親は、


「金で全て解決はできないが、金があればできることは多い。何より複数人の女性と関係を維持するとなればな」


と言っていた。その代わり世間には隠し通せよと言われたが……まぁばれたらグループが傾きかねない。


そして現在刹樹と癒羅だが、勇誠と似たような感じらしい。ようは冷戦状態と言うやつだ。いや、普段家にいない自分と比べれば、二人の両親はいるので、かなり辛い思いをさせてる筈だ。そう思うと、心臓が痛くなるが、それでも出来ることをやるしかない……のだが、


「私その辺の話し知らなかったんですけど」

「どう言えばいいんだよ……」


抗議する視線を向けるクルルーラに、勇誠はため息を吐きながら返事をした。


しかしクルルーラには言ってなかった(言う暇もなかったが)事だがどうするべきか……勉強は絶対だ。とは言え実質夜寝てる間に行うなら、出来ると言えば出来る。だが美矢が言いたいのは、今他の事を背負う余裕があるのか?と言うことでもある。


「ですがまぁ、寝てる間となれば少し考えもありますが」

『え?』


美矢の言葉に、勇誠達が首を傾げると、


「本来人間は寝ることで疲労の回復及び、必要な記憶の定着や、そうでないものなら忘却等の処理を行い、脳の容量を確保します」

「うん。だから俺に徹夜はせずに早く寝ろって言ってたしね」


その分昼間には鬼のような勉強祭りなのだが……何て思っていると、


「そこで思ったのですが、寝てる間。つまり異世界に魂が言っている間。肉体は寝ている状態ですが脳の処理はどうなっているのでしょうか?」

「き、記憶ですか?まぁ……向こうの出来事は厳密には脳で記憶しているのではなく、魂の記憶と言いますか、こっちの世界の記憶とは別枠で記憶しているので、肉体の記憶処理は出来てますよ?」


クルルーラが、美矢からの質問にアセアセしながら答えると、


「ですが異世界の記憶はあるのですわよね?」

「そ、そうですね。何と言うか……パソコンで言う外部メモリ?で記憶してて、勇誠さんはそれを閲覧して出来事を知り、まるで記憶していたように錯覚している状態とでも言いますか……」

「と言うことは異世界で学んだことはこっちで反映できると言うことですわね?」


はい……とクルルーラは美矢が何を言いたいのか分からず首をかしげつつ、


「まぁ外部メモリから閲覧する状態なので、体を鍛えても反映はされませんよ?まぁ記憶したことは寧ろこっちの世界で覚えたことより思い出しやすいかと思いますが……」

「やはりそうでしたか」


勝手に頷いて納得する美矢に、どうかしたの?と癒羅が聞くと、


「分かりましたわ。異世界行きを許可しましょう」

『え!?』


美矢の突然の言葉に、皆が驚く。しかし、ですが条件がありますわ、と美矢は言い、


「私も異世界にいきます」

『はぁ!?』


続けざまの言葉に、皆があんぐりと口を開ける。


「向こうでも私が勉強を教えますわ。徹夜は非効率ですが、異世界でなら効率的に行えます。昼も夜も勉強出来るのであれば、何も問題はありません」

「あのぉ、異世界にはこっちの世界のものの持ち込みは無理ですよ?その逆もですけど……」


クルルーラが恐る恐る言う。すると美矢は、


「各種テキストは既に全部一言一句違えることなく暗記してますわ。手ぶらでも何も問題ありません」

「はぃ?」


さらっととんでもないこと言いました?とクルルーラは冷や汗を垂らしつつ、


「で、ですが……神候補生が選出できる人間は一人でして」

「そこはどうにかしてもらえないのですか?」


出来ませんよ、とクルルーラがぼやくように言うと、美矢はそれは宛が外れましたわね。と腕を組む。すると、


「て言うか美矢先輩それ、うまくいけば夜毎日勇誠と二人になれるとか考えてないですよね?」

『……』


何気ない魔実の一言に、美矢も含め皆が静まり、部屋に木枯らしが吹く。すると、美矢はにっこりとお上品な笑みを浮かべ、、


「そ、そんなことありませんわよ?オホホホ」

「やっぱり!」


笑って誤魔化そうとする美矢に魔実が詰め寄る。


「何ちゃっかり淡い期待してるんですか!」

「い、良いじゃありませんの!普段は放課後に勉強会のときしか会えない上に皆さんと一緒ですもの!後は二人きりになれるのは日曜のデートだけですわ!」


因みに普段皆とは放課後に集まって勉強会をしており、そこで自分の勉強を見て貰うのだが、それとは別に日曜日だけは息抜きを兼ねて、ローテーションでそれぞれとデートの日となっている。だがローテーションなので、自分の番になるには、それなりに期間が空く。まぁ皆で決めたこととは言え、色々思うところはあるらしい。


「美矢」

「む?」


勇誠は頭を掻きながら美矢に話しかけると、


「ありがとな。そう思ってくれてさ。俺ももっと皆それぞれと一緒の時間を作りたいんだけど、今年の状況が状況だけに難しくてさ。ちゃんと受かったらもっと時間作るからさ。だから無事受かれるように頼むな?俺も頑張るからさ」

「そ、それは分かってますわ。でも何週間に一度じゃ寂し過ぎます。ただでさえ私は、魔実さんや空さんに刹樹さん達と違って一緒に登校も出来ないんですのよ?」


と言って甘えてくる美矢。普段はハキハキとした、しっかり者イメージがあるが、二人きりの時は甘えん坊でスキンシップが大好きな、普通にかわいい女の子だ。初めて会ったときは、常に肩に力を入れていて甘えるどころか、笑みを浮かべることもなく、冷徹な刃のようなオーラを纏っていたが、変われば変わるものである。と言うか、ほぼ別人レベルだ。


「ちょっと勇誠。随分美矢さんに甘くない?」

「いやただ中々時間が取れなくて悪いなとは常々思ってるんだ。だからごめん。俺がもうちょいうまくやっていればこうならなかった」


勇誠にそう言われ、魔実と美矢は弱る。そう返されてはなにも言えない。勇誠の普段の努力は、皆が一番よく知っていた。平均的だった学力を、日々伸ばしている等、結果も残している。そんな空気の中、


「どぉん!」

『っ!』


急に扉が開かれ、そこから飛び込んできた声と人影に、皆は思わず身構える。だが勇誠はだけは見覚えがあり、


「フラメ!?」

「お兄ちゃん!」


ドスッ!と勇誠に抱きついたフラメは、彼の胸に顔をグリグリと匂いを着けるように擦り付けた。だが勇誠は、


「……」


周りの視線に居たたまれなくなっていた。まるで鋭利な刃物のような視線が、ザックザクと6人分(魔実・空・刹樹・癒羅・美矢・勇女)刺さってくる。と言うか、


「そうかぁ……こんだけ種類の違う女性が周りにいても、ロリっ子属性はまだなかったもんね」

「ちげぇよ!失敬すぎるだろ!流石の俺もこんな小さい子に手を出すか!」


と失礼すぎる妹、勇女に勇誠は突っ込む。だが、次の瞬間背中に悪寒が走り、


「どう言うことですか?」


そう感情のない(元々表情が乏しいのだが)目を向けながら、刹樹がこちらに問い掛けてくる。


「いや異世界で会ったと言うか……」

「いえいえ、オルトバニアからは物も人も持ってこれませんよ?身に付けていた武器もそうです。向こうの世界にまたいけば戻ってきますが」


なんてクルルーラが、空気を読まずに余計過ぎる援護をし、


「どういう……」

「ことかしら?」


魔実と美矢はそれぞれ勇誠の肩を掴み、にっこり迫力のある笑みを向けながら、此方に問いただしてくる。さっきまでちょっと言い合いしてたのはどこのだれだろうか。まぁあの程度のは軽口の応酬みたいなものの延長だから、険悪なわけじゃない。何時ものよくある事だ。


「勇誠。年下に手を出すにしても、せめて明らかに犯罪な年の子はやめろよ。いやこれ以上人が増えるのは勘弁だけどさ」

「め、面会には行くからね?」


おーい……と空と癒羅に突っ込みながら、勇誠はため息。まぁ空は半分笑ってるので、何かしらの事情があったのは察してくれてるのだろう。他の皆だってそうだ。だがいい加減どうにかせねば不味そうだ。と言うわけで、


「あのクルルーラさん。本当にこの子はオルトバニア出会ったんですけど」

「ふむ……確かにこの子の格好的に、こちらの世界っぽくはないですね。それに見てみればオーラが此方の世界の人間のものではありません」


ソレがわかるんなら最初からそうしてくれ……と勇誠は思いつつ、


「どうしてこの子来たんですか?」

「し、調べますので取り敢えずこの縛りを解いて貰えません?」


普通に見慣れていたが、未だに逆さ吊りの彼女に声を掛けると、クルルーラがそう呟く。しかし勇誠は、ずっと疑問だったことを投げ掛けてみる。


「そもそも神様候補生パワーで自力では解けないんですか?」

「……あ」


ポン!とクルルーラは気付いたような表情をしつつ手を叩き、次の瞬間彼女はフン!と力を込めると、一瞬体が発光し、体を縛っていたヒモがスルスルと外れた。


「いやぁ、最初から気づいてましたよ?でもほら、余り好きに力使うと地上のバランス壊しちゃうので?敢えて力使わなかったんですよー!だからそのコイツバカだなぁって言う感じの眼はやめてください!」

「いえなんか……疑ってすいませんでした。本当に神候補生だったんですね」


魔実は最初にそう言うと、続いて他の皆も次々と、疑ったり逆さ吊りにしてごめんなさいと、代わる代わる言いにいく。そんな光景に耐えきれなくなったのか、


「だからその、こんなのでも神様候補生だったんだぁ~、みたいな生暖かい目でみるなぁああああああ!」


と、クルルーラの絶叫が響いたのは、言うまでもない。

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