ハーレムエンド後のギャルゲーの主人公が勇者になってヒロイン達と魔王を倒して世界を救うようです
ユウジン
プロローグ 勇者にさせられました
勇者になってください
「ん?」
少年が眼を開けると、そこは真っ白な世界だった。何もなく、ひたすらまっすぐな地平線の世界。いやまあ真っ白なので、何処まで広いのかが分からないのだが……
と言うか何故自分がこんな所にいるのだろう。そもそもまず自分がここにいる理由がわからない。昨晩は普通にベットに入って眠りに着いたはずだ。
するとそこに、
「パンパカパーン!おめでとうございまーす!」
「はい?」
突然クラッカーの音と共に現れたのは、豪華な服を着た自分より年下の少女。
「重ねておめでとうございます!貴方は異世界に転生し、勇者となる権利を得ました!と言う訳でこちらへ!」
と言って少女が指を振ると、何処からともなく机と椅子が現れ、有無を言わさずそこに座らされた。
「まず、転生する際には幾つか特典がありましてですね」
「ちょ、ちょっとまてぇ!」
矢継ぎ早に喋ってくる少女に、少年は待て待てと手で制しながら、
「転生ってなに!?そもそもどちら様!?」
「あぁ……そう言えばその辺説明忘れてましたね」
テヘペロっとイラッとする言い方で言ってくる少女に、思わず突っ込みたくなったが、取り敢えず黙っておく。そして少女は、
「まずですね、貴方には転生して欲しいのです。このオルトバニアに!」
バーン!と人差し指を上に向けて突き上げながら少女は、
「あ、私は神候補生のクルルーラです。以後お見知りおきを」
「あ、ご丁寧にどうも……」
ペラペラと喋り倒してくる彼女に、少し頭がクラクラしてきたが、
「それでその神様候補生様が俺になんで転生を?」
「はい!実はですね。先日神様が死にまして」
「ふぅん……はぁ!?」
何の気なしに聞いたが、さらっと今凄いことを言われたのは気のせいではあるまい。
「神って死ぬの?」
「普通に死にますよ?人間よりは長生きですけどね?」
あっさり認め、クルルーラは更に言葉を続ける。
「そしてですね、昔から神が死ぬと次の神を神候補生……つまり私のような立場のものから、とある方法によって選出されます。それが選ばれし者による選抜の儀。神候補生達が選んだ代理人である人間の戦いにより、勝者を決めてその勝者を選んだ神候補生が次の神になる。歴史には記されてませんが昔からあったんですよ?ほら、そっちで言う戦国時代何てヤバかったんですからね~?歴代で最も参加した神候補生が多かったのもあって代理が多かった上に、天下を取ったものが勝者ってルールなのに特定の人物を頭にした連合まで組んじゃって大混乱。そしてなんやかんやで織田信長が勝つかなぁって思ったら、下克上されて豊臣秀吉が天下取っちゃって、決着~って思ってたらその神様調子に乗ってお祝い騒ぎしたら、食べ過ぎ飲みすぎで酔っ払った挙げ句スッ転んで頭打って死にましてね?大慌てでもう一回選抜の儀をやって、徳川家康になったんですよ。いやぁ、あのときも沢山の代理が選ばれたんですけど、皆揃って主君がどうこういって、結局実際争ったのって家康と秀吉の息子だけでしょう?あれで結構問題になったんですよ。折角代理を選んでもその代理が戦ってくれないんじゃ話しにならないって」
「う、うん……つまりその代理に俺は選ばれたってこと?」
そゆことです!と流石に長々話されて痺れを切らした少年が聞くと答えて、
「あ、安心してくださいね。いくら選抜の儀とは言え、最近の少年少女に殺し合い何てさせられません。コンプライアンス的にね。と言うわけで先日死んだ神様が残したのがオルトバニア。そちらの世界から見ると異世界って言うやつです。この世界では様々な問題が起きており、現在魔物とそれを引き連れた魔族。そしてその頂点の魔王が世界を脅かしており、代理人達が勇者となって世界に降り立ち誰が世界を救うかで勝敗を決します。もう全国の少年少女が夢見るヒーローになれちゃうんです!凄いでしょう!?と言うわけで転生するには……」
「いや俺転生しないけどね?」
え?とクルルーラは少年の言った意味が分からずポカンとしたあと、
「それでは転生するには……」
「俺は転生しないっていってるんだけど勝手に話進めないでもらって良いかな?」
改めて言う少年に、クルルーラは眼を真ん丸に見開いて驚愕しながら少年に詰め寄る。
「な、なぜ?オルトバニアに行けば勇者ですしもう何でも出来ますよ?あいや、勇者としての能力にもよりますけど、少なくとも衣食住に困ることはないですし、可愛い女の子もたくさんいますからそれこそハーレム作れますよ?」
「いらないよ。彼女にぶっ殺される」
少年は溜め息を吐きながら言う。だがそんな彼の様子より、クルルーラには聞き捨てならない事があった、それは、
「は?彼女?」
「うん。最近彼女が出来たんだ。それに両親は海外飛び回ってて家を空けてることが多いから、俺がいないと妹が一人になっちゃうからさ」
そう少年が言う中、クルルーラは美少女として、してはならないほど顎が外れそうな勢いで口をアングリ開け、
「え?ちょっと待ってくださいね?貴方は
「うん」
そう確認するクルルーラに少年……いや勇誠は答える。
「えぇと、毎朝起こしに来てくれる物心がついた頃からの付き合いの家族みたいに大切な幼馴染とちょっとブラコンな妹と中学時代から悪友みたいな感じでずっと居た男勝りな異性の親友と運動部期待の新人の無口な後輩と読書が好きな少し人見知りだけど優しい癒し系の先輩と気が強いけど裏では努力家なお金持ちのお嬢様で生徒会長で弓道部部長の先輩の総勢6名とフラグを建てると言う冴えない癖にギャルゲーの主人公みたいな鶴城 勇誠さんですよね!?」
「もしかしなくてもバカにされてるよね?」
若干顔をひきつらせた勇誠は、クルルーラの発言にコメカミをピクピクさせながらも、
「あと言っておくけど、妹とフラグは立ってない。そして俺はギャルゲーの主人公じゃない」
「でも数少ない男友達の方からも言われてますよね?」
クルルーラの言葉に、勇誠はその点に関してはなにも言えなくなる。そして、
「それにまだ皆さん誰も彼女ではないですよね?見習いとは言え神様だから知ってるんですよ?」
「それいつの話?」
何時って今11月ですよね?とクルルーラは首をかしげるが、勇誠は大きく溜め息を吐き、
「もうとっくに4月だよ」
「……へ?」
クルルーラは今度は眼を点にして固まる。そんな様子の彼女を見ながら勇誠は、
「その辺のゴタゴタがあったのは俺が2年の11月から12月の間。でも今は無事進級して3年に上がった所だよ」
「はぃいいいいいい!?」
それを聞いたクルルーラは、空間にスマホの画面みたいなものを作り出すと、大慌てで調べはじめて……
「しまったぁ!神の世界と他の世界は時間の流れが違うこと忘れてたぁ!」
どしぇ!とひっくり返りそうな勢いでクルルーラは大慌てしつつ、改めてこちらを調べる。
「現在高校三年生、前年度の全国大会優勝の経験により剣道部部長に……しかもフラグ建てた女の子全員と全員と交際中ですってぇ!?なんですかそれは!ギャルゲーって言うかエロゲーのハーレムエンドかなにかですか!」
「俺にキレられても……」
あの時は色々あったから……そう言いながら勇誠は去年のクリスマスを思い出す。全員から告白され、誰か一人を選ばなくてはならなくなった後頭から湯気が出るほど悩んで紆余曲折あって全員と付き合うことに。って冷静に考えてもどういう状況だこれ……
と思い悩むのも既に何度目かも数えてない。だがクルルーラは完全にパニックであり、
「そもそも倫理的にどうなんですか!と言うか日本は重婚禁止ですよね!?」
「いやまあそうだけど別に結婚してるわけじゃないから……」
そうですけどぉおおおおお!とクルルーラは叫び、少し肩で息をした後少し落ち着いたのか、
「ま、まあ女の子何人と付き合おうと良いんですよ。勇者は少し位モテモテな位で良いんですからね!」
「だから勇者はやらないってば」
勇誠はそう言う。するとクルルーラは勇誠の足にしがみつき、
「そこをなんとかお願いします!正直私は貴方以外勇者には考えてないんです!これはリップサービスでもなく本当です」
と鼻水と涙でグシャグシャの顔になりながら、クルルーラは勇誠にお願いしますお願いしますとすがってくる姿に、少し同情してしまう。
とは言え、それでも勇者とか言うやつになるつもりはなかった。なので、
「悪いけど他を当たってくれない?」
「嫌です無理です!もう今から探す時間がないんです!」
なんだってそんなにギリギリに?そう勇誠が聞くと、クルルーラは少し気まずそうにしながらも、
「まだ時間があると余裕ぶっこいてたらつい……」
「夏休みの宿題かよ」
ゴフゥ!と勇誠の突っ込みに血反吐を吐くクルルーラ。だがめげずに立ち上り、
「良いんですかぁ!私の言うこと聞かないとここから出れないんですよ!そしたら結局彼女さんたちに会えないんですからねぇ!」
「うわぁ……」
最終的にあろうことか脅しに走った神候補生に、勇誠はドン引きしつつも、
「でも時間がないんだろ?もしその選抜の儀とか言うやつを代理が見つけられずに迎えるとそれはそれで不味いんじゃないの?」
「意外と鋭い……」
鍛えられたからね、と勇誠は言いながらクルルーラを見る。
「だからお互いが納得できる方法を探らない?」
「成程、勇者になっていただけるんですね?」
あんたってホントに話聞いてる?とジト眼で勇誠は遂に苛立ちを隠すのを辞めた。流石にこいつ諦め悪すぎでは?と思い始めた。いやまあ普通ならもっと初期の頃に気付くことであるのだが、その辺が優しいと言うべきか甘いのか……まあそれが彼女達の頭を痛めていたりするのは別の話として、
「あ、そうだ!そう言えばそうですよ!」
そう言ってクルルーラはなにかを思い付いた顔をして、
「貴方は究極の話し、彼女さんたちとまた会えればいいんですよね?」
「ま、まぁね?」
突然の言葉に勇誠が首を傾げると、
「えぇとですね。まず転生とは別に肉体ごとじゃないんですよ。正しくは魂だけをオルトバニアに飛ばして肉体を一時的に与えている。言ってしまえば勇誠さんたちはリアルな夢を見ている状態なんです。なので魔王を倒せばそちらの世界に戻れますし、万が一他の方が倒したり道中で死んだとしても、ルールなのですがオルトバニアでの記憶を消した状態でとは言え元の世界に戻されます。つまり勇誠さんが心配していることに関しては問題ないんです!」
「でもさ、例えばだけど俺や他の人が魔王を倒すまでに1年掛かったとしたら俺の体はどうなるの?」
そんな勇誠の問い掛けにクルルーラは、
「まあオルトバニアとそちらの世界は時間の流れは殆ど同じですからね。違いはちょうど昼夜が逆な位です。オルトバニアに一年いたらそちらでも一年でしょう。一応神候補生なので貴方が脱落した場合でもそうでない場合でも転生する直前の時間に魂を戻すことも可能ですが」
「用はそれって俺が勝っても負けても転生する直前に戻れるってこと?」
そう言うことです、とクルルーラは頷く中勇誠が、
「つまり転生した直後に自分で……」
「それは絶対やめてください。でもノーリスクなのはわかるでしょう?」
だからね?とクルルーラは眼を輝かせるが、
「でも無理だな」
「何故ぇ!?」
そこは受け入れる流れですよね!?と驚愕するクルルーラだが勇誠はさらりと、
「だって下手すると年単位で皆に会えないってのが俺には辛すぎるから」
「なんじゃそりゃあ!惚気ですか!?惚気ですよね!?何が俺が辛いからですか!素直か!素直すぎだわ!」
そう言われても事実だし?そう勇誠は恥ずかしげもなく言う。嘘偽りなく皆が好きだから皆と付き合えてるのだから、そこは仕方ないだろう。
「じゃあもうどうしたら勇者になってくれるんですかぁああああああああ!」
「まぁそのオルトバニアとこっちの世界を自由に行き来できるなら良いけれど……」
勇誠は何気なく呟いた。だがそれを聞いたクルルーラは、
「あ、それ出来るかも……」
「え?良いの!?自分でいっといてなんだけどそれ行けるの!?」
勇誠も自分で言っといて驚く中、クルルーラは顔を寄せて説明してくれる。
「まずですね、オルトバニアに転生すると3つ能力をもらえます。1つは勇者としての能力です。まあ3つとも全部同じ理由なのですが、これは今まで人間同士の戦いだった選抜の儀ですが、異世界でやるに辺り魔物などもいる上に、現代の若者は戦い慣れしてないのを見越しての処置です。身体能力の向上や魔法を使えるなどですね。2つ目は勇者自身の功績や特技から作られる能力。そして3つ目が、神候補生が直接与える能力。最後の3つ目だけは神候補生が好きに出来ます」
「何でも?」
何でもです。とクルルーラは言いながらも、
「まぁ厳密には神様の技量に寄るんですけど、転移能力と考えればそこまで難しいものじゃありませんしね。寧ろ転移先と肉体事じゃなくて魂だけを転移と限定できる分難易度は更に下がります」
まあ私ってそもそも天才ですしぇ~オホホホホ!と高々に笑い出すクルルーラに、何処となくアホの子の雰囲気を感じ取った勇誠だが、そこは黙っておく。
あと多分だが、こいつはそこまで凄い神候補生じゃない。今までの言動や行動を見てもそう感じる。
「と言うわけでじゃあ今度こそ勇者になってくれますよね!?」
「うぅん……」
至れり尽くせりなのは分かる。だがそれでも正直乗り気じゃない。何せ勇者とかガラじゃない。それに何故クルルーラが自分を選んだのかわからない。
「なぁクルルーラさん」
「はい?」
何で俺だったんだ?勇誠はそう問う。するとクルルーラは、
「あぁ、時間がなかったんでダーツで適当に選びました」
「マジぶん殴りてぇ」
いよいよ勇誠の堪忍袋の緒が切れた。だがクルルーラは手早く魔方陣を展開すると、
「では行ってらっしゃーい!」
「いやちょっと待って!まだなんも説明を……」
オルトバニアについてとかその他諸々!と言おうとした勇誠だがその頃には姿は消え、
「はぁ、やっと勇者になって貰えた。全く、最近の若い人はすーぐ文句つけるんですから。これがゆとり世代って奴ですかねぇ」
さぁて、無事見つかったしお肌のためにもう寝よっと……何て言いながらクルルーラは立つ。一方その頃、
「ふむ」
勇誠はベットの上にいた。言っておくが異世界のではなく、普通のいつも寝ている自室のベットの上だ。
何故ここにいるのか。それは簡単で、オルトバニアと思われる森に出た。のは良いのだが、まず向こうは夜だったのだ。クルルーラの言うとおりオルトバニアと勇誠の世界は昼夜逆だとするのなら、勇誠の世界は朝だ。そう判断して戻ってきた。戻って来るのは意外と簡単で、咄嗟に戻りたいと思うと一瞬の浮遊感と共に、気付くと布団から起き上がって、思わず周りを見回している。
取り敢えず無事戻っては来れたみたいだ。そうひと安心し、布団から降りた。
そしてもう一つ戻ってきた理由なのだが、なんと服装がパジャマのままだったのだ。これでは色んな意味で不安である。そう思い、取り敢えず行くなら私服だと決める。
と言っても、いつの間にか行くことを決定されたが、うんとは言っていない。つまり別にもう行かなくても問題はないのか、そんな事を考えていたところに、
「あれ?いつも朝弱いくせに起きたんだ」
「ん?あぁ、魔実か」
杖島 魔実……今扉を開けた少女の名前だ。親同士も長い付き合いで、それに伴って物心がついたときから一緒の所謂幼馴染の少女。そして現在は彼女の一人だ。
自分で言っといて何だが、彼女の一人って凄いワードな気がする。
まあそれは置いといて、家が隣の彼女は朝が弱い自分を起こしに来るのが最早習慣である。
「早く着替えて降りてきなね?もう勇女ちゃんがご飯準備してるよ」
「あぁ、うん。ありがとな」
昨晩と言うか先程の一件について話すかどうか少し考えたが、黙っておこう。正直言ったところで信じてもらえると思えない。
「どうしたの?なにか悩みごとがあるみたいだけど?」
「ん?まぁ色々あったと言うかあると言うか」
アハハと乾いた笑いを浮かべながら優勢が言うと、魔実がこちらに寄ってきて、
「ぬぐっ!」
チュッと軽くキスをして来た。唇を重ね、軽く互いの息づかいで唇を濡らし合うだけのキスだ。
そして唇を話すと、
「まだ余裕そうだから聞かないけど、少しでも抱えきれなくなりそうだと思ったら言いなさいよ?まぁ、その前にあまりだんまりでも聞き出すけど」
そう言う魔実に、勇誠は頬を掻きつつ、
「助かるよ」
彼女たちのなかでは一番付き合いも長い魔実相手には隠し事ができそうにない。そんな事を思いながら、朝御飯に遅れないように魔実を部屋から出して着替え始めるのだった。
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