目の前の現実
洸太「陽介、お前まだ本書いてんの?」
俺「え、ああ本な、まだ書いてるよ」
由美「え!書いてたの!!また読ませてよ」
洸太「『君のせい』だっけ?書籍化されたやつ
あれ面白かったよなあ」
『君のせい』
それは俺が高校生の時たまたま受賞した本だ。
あの本が受賞しなければ俺が小説家になることは
なかったし、こんな生活をすることもなかった
俺「悪い。ちょっとトイレ行ってくる」
慌てるようにテーブルを飛び出した。
便座の前に立った瞬間、思いっきり吐いた。
今まで俺が逃げ続けた現実を
書いても書いても評価どころか
誰にも興味すらもたれない
自分に才能がないという現実を
本と関わらないことでなんとか保ってはいたが
目の前に突きつけられたような気がした
もう本は書いていないくせに人間特有の
腐った意味のないプライドが邪魔をして
書いているとうそをついた。
もうすでにボロボロで弱りきっている心を
自分ナイフでぐさぐさと刺しているかのように
痛かった。苦しかった。
二人ももう俺が本を書いていないことに
気づいているかもしれない。
気づいたうえで話してくれているのかもしれない
そんな恥ずかしさや情けなさよりも
目の前の現実の方がよっぽど怖いし
苦しかった。そうやって自分を悲劇のヒロイン
のようにしたてあげ、今まで逃げてきた。
でも、そんな自分ともそろそろ別れが近づいて
いるのかもしれない。
ようやく落ち着いてテーブルへと戻ろうとした時
後ろから急に声をかけられた
?「あのー秋山桜さんですよね??」
呼ばれたのは俺ではなく小説家秋山桜だった
俺「人違いじゃないですか?」
?「あ、申し遅れました
私、サニー出版の間宮日向って言います!
大ファンなんですよ!『君のせい』」
この初対面でぐいぐいくる感じ苦手だ
俺「すいません、僕もう書いてないので」
「まあ、そう言わず、これ名刺です
何かありましたらたら連絡してください!
と、足早に出て行った。
サニー出版。聞いたことはなかったけど
一応本当にあるみたいだった。
席へ戻ると時計の針は0時を回っていた
洸太「よし、じゃあ明日も早いし
先帰るよ!また連絡するわー」
と言ってすぐにタクシーに乗り暗闇へと紛れていった。どうやら俺がトイレにこもっている間に
洸太が会計を済ませてくれていたみたいだ。
由美「陽介は早く帰らなくていいの?」
俺「まあ用事もなければ時間に縛られても
いないからね」
由美「良いねえ。小説家は自由だ」
自由なんかじゃない。ただ苦しいだけだ
それに俺はもう小説家なんて名前で呼ばれては
いけないのではないだろうかと思い
俺「実はさ、、、」
由美「ん??」
「もう書いてないんだ」そう言おうと思った
言ってしまった方が楽だととも思った
由美「なに?どうかした??」
俺「うん、いや、やっぱなんもないわ」
でも言ってしまったら負けな気がした
言ってしまったらそれを言い訳に
またずっと逃げ続けてしまう。
そんな自分をもう見たくない
だから負けてはダメだと思うことができた
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