第49話一八二七年、協力金と合力米

「上様、僭越ながら申し上げ奉ります。

 我が孫、権中納言はまだまだ若年でございます。

 言葉や表現にも幼さが抜けておりません。

 どうか細かな打ち合わせは、祖父である私や、父である尾張殿にまかせていただけないでしょうか。

 任せていただけるのなら、東照神君の御告げを蔑ろにせず、上様の御心を悩ます事のない道を探れると思うのです。

 どうでございましょうか」


「そうか、そうしてくれるか。

 右兵衛督と権大納言が話を纏めてくれるのなら、余も助かる」


 御爺様の助けの御陰で、俺は徳川家斉の前から下がることができた。

 前世では堅苦しい事からは逃げて生きてきた。

 進んで礼儀を破る気はないが、常識に欠けた前世だった。

 今回も東照神君の巫覡でなければ許されないような、礼に失した言動を重ねていたと思うので、父上と御爺様が変わってくれるのなら、これほどあり難い事はない。


 俺は城を下がって松前藩上屋敷で父上と御爺様の帰りを待っていた。

 父上とお爺様が松前藩の上屋敷を訪ねてきたのは、俺が城を下がってから四時間後だったので、結構激しい交渉があったのかもしれない。

 いや、もしかしたら、俺と家斉の拗れた関係を修復するための、何気ない日常会話を繰り返すための時間だった可能性もある。


「父上、御爺様、御手数をお掛けしました」


「なんの、なんの、むしろ楽しかったわ。

 上様を相手に対等以上の立場で話ができるなど、二度とないかもしれぬわ」


「父上の申される通りだ。

 尾張徳川家の当主として、上様に意見するなど、爽快爽快。

 これほど楽しい事はなかったわ」


 父上と御爺様が、俺が気にしないように、平気な顔で話してくれる。

 だが、俺には分かる。

 この時代の人が、しかも徳川松平の人間が、上様に逆らって意見するなど、とても心に負担がかかる事だろう。

 それを俺のためにやってくれたのだから、感謝に堪えない。

 しかも勝ち取ってくれた成果が、登城前に三人で話し合った最善の条件だった。


 俺からの幕府への要求は、協力金と合力米の支給だった。

 既に五十五万もの野非人を喰わしていたところに、五万もの元薩摩藩士とその家族を召し抱えたのだ。

 扶持として渡す現民や米も莫大だが、彼らを住ませる屋敷と支給する衣服まで考えると、交易利益の半分、百万両以上が吹き飛ぶのだ。

 その保証をしてもらわなければどうにもならない。


 父上と御爺様は、協力金五十五万両と合力米五十五万石の支給を、徳川家斉から勝ち取ってくださった。。

 米の方は直ぐに集められないが、金の方は直ぐに支給してくれるという。

 正直助かった。

 江戸までどうやって百万石近い米を運ぶか、頭を悩ましていたのだ。


「それと、権中納言に大きな地位をもらってきてやったぞ」

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