大老就任
第50話一八二七年、大老参与就任
「何事でございますか、御爺様」
「今日から権中納言は幕府の大老参与じゃ。
大老参与じゃから毎日登城する必要はない。
重要な政策の決定にだけ登場すればよい。
月番などないし、評定所に出座する必要もなければ老中奉書に連判する事もない。
東照神君の御告げの時にだけ、登城すればよいのじゃ」
何をやってくれるんですか、御爺様。
所詮は家臣に過ぎない大老ならば御飾りですみますが、将軍の後見人である大老参与だと、幕政全般の関与だけではすまないのですよ。
将軍の後見人として、殿中の諸儀式や将軍家の法事や参詣の差配も担当するのだ。
齢僅か八つで、しかも常識を知らない俺には、絶対に果たせない役目だ。
「それは無理です、御爺様。
私は殿中の常識は勿論、武士の常識も学べていません。
そんな私が大老参与の御役目を頂いても、大きな失敗をするだけです。
今日のように、上様が茂姫の影響を受けて悪意で接してきたら、とても防ぎ切れません。
どうか今からでも御役目を辞退してきてください」
「なあに、そんな心配はいらぬよ、のう」
「はい、父上。
権中納言は何も心配しなくてもよいぞ。
余も大老参与の役目を頂いた。
権中納言が登城する時には、余も父も一緒だ。
大老参与しか入れないようなところであろうと、余が必ず一緒だ。
何も心配はいらない」
とんでもない事をやってくれた。
俺の想定の遥か斜め上の事をやらかしてくれた。
こんな役目を与えられたら、徳川一門は勿論、松平諸氏からも妬まれてしまう。
恨み妬みは俺だけにとどまらず、父上や御爺様にも及ぶだろう。
本当に困った事をしてくれた。
もし、俺が成人で、剣の達人だったりしたら、いい役目だと思う。
東照神君の巫覡として、時に徳川将軍を掣肘してでも、東照神君の御告げを成し遂げなければいけないのなら、それだけの権力が必要になる。
その権力は、大老よりも大老参与の方がある。
だが、今の俺では、それだけの重責には耐えられない。
体力も精神力も、まだまだ足らないのだ。
ここは、しばらく大人しくしておくべきだろうな。
大老参与の役目を頂いたことで、周囲の眼が異常に厳しくなっているだろう。
この状態では、何をやっても悪意でとらえられてしまう。
本当なら蝦夷に逃げてしまいたいのだが、今回はその手が使えない。
大老や大老参与は、老中と同じように江戸に常駐しなければいけない。
どうしたものだろうか。
無理矢理にでも御役目を返上しようか。
それとも、仮病を使って領地に帰るか。
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