第28話一八二五年、尾張徳川家継承

 正直な話、こんな短期間の間に、ここまで歴史が変わるとは思わなかった。

 半狂乱になった徳川家斉が、東照神君の御告げを蔑ろにした尾張徳川家に、厳罰を与えたのだ。

 いや、尾張徳川家に厳罰を与えたというよりは、父親の血筋に罰を与え、少しでも東照神君に詫びようとしているのだろう。


 自分の甥であり、尾張徳川家第十代当主である徳川斉朝に、御告げを無視して火事を防がなかった罪で、隠居謹慎を命じた。

 徳川斉朝の養子とされていた、弟の徳川直七郎も連座の罪で廃嫡にして、僅か七歳なのに隠居謹慎させてしまった。

 乱心者が将軍となっている事に、正直恐怖を感じてしまった。


 それでも、もしここで、尾張徳川家の後継者に竹腰正定か井上正瀧を選んでいたら、俺は徳川家斉を見直し、支えるような行動をとったかもしれない。

 だが、徳川家斉には、そこまでの考えも胆力もなかった。

 俺におもねり、東照神君からの罰を少しでも軽くしようという、姑息な考えが透けて見える後継者選びをした。


 俺が、東照神君から、蝦夷樺太千島を領して徳川幕府を守れと御告げを受けていると、何度も繰り返して徳川家斉に伝えていたからだろう。

 迂遠なやり方で俺を媚びてきた。


 俺は、東照神君から御告げを受けて、度々災害から日本を守った事が評され、従三位に昇叙され参議にも補任され、右近衛権中将を兼帯することになった。

 そして俺が藩主を務める松前藩は、表高を再検地された形で高直しが行われ、十万石格とされ、築城の許可も与えられて蝦夷国の国主とされた。


 父の松平掃部頭義建を、無理矢理今は亡き尾張徳川家の九代目当主徳川宗睦の養子という体裁にして、尾張徳川家十一代目当主とした。

 父は従三位に昇叙され参議にも補任され、右近衛権中将を兼帯することになった。

 父が尾張徳川家の当主に選ばれた一番の理由は、俺が東照神君の巫覡だという現状と、東照神君の天罰を恐れる徳川家斉の恐怖感だと思う。


 だが、その裏には、父と祖父の暗躍があった。

 越中富山の薬売り達の調べでは、徳川家斉から指示を受けた水野忠成が、父と祖父に相談して、俺の昇叙補任と高直し、築城許可と国主就任が決めたらしい。

 同時に父の尾張徳川家継承と、昇叙補任も父と祖父の意向だったらしい。


 祖父の松平左近衛権少将義和は、従四位下、侍従、中務大輔、左近衛権少将から、正四位下に昇叙され、参議にも補任され、右兵衛督を兼帯することになった。

 更に高須松平家は一万石加増され、築城の許可も与えられて、美濃高須藩四万石の城主とされた。


 父には俺という男子があり、弟の秀之助も生まれており、母の腹には寧四郎が宿っているので、尾張徳川家の後継問題は大丈夫だろう。

 下剤を止め、初乳を飲ませるようにし、経口補水液で対処療法をすれば、夭折した整三郎と鐡丸を助ける事もできるかもしれない

 彼らを鍛え、松前藩の陣代にする事ができたら、西洋列強と互角に戦う事も可能になるだろう。

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