第17話一八二三年、意外な蝦夷開発人員

 蝦夷樺太開発の為のアイデアは幾らでもあった。

 だが、肝心の船がないのだ。

 江戸から蝦夷樺太にまで無宿人を送りための船が不足していた。

 

 正直な所、北前船で交易を優先すれば、蝦夷樺太開発の為の人間や、彼らに喰わすための食糧や、開拓拠点設立のための道具を送れない。

 開発人員輸送に北前船を使えば、交易利益が確保できない。

 とても悩ましかったが、どちらかを選ばなければいけなかった。


 少し悩んで、俺は交易を優先することにした。

 俺が優先するのは、大幅に修正した明治維新だ。

 いや、維新をするかどうかも分からない。

 俺がやりたいのは、日本のためになる開国だ。

 不平等条約による開国など糞喰らえだ。


 その為には、先ずは黒船を拿捕するか撃破するかしなければいけない。

 黒船を拿捕するか撃補するには、黒船が来航するまでに、スクリュープロペラ式の軍艦を建造し、軍艦を縦横無尽に操れる海軍将兵を育成しなければいけない。

 だから優先すべきは、北前船で交易をおこないつつ、乗り込ませた若党と目付を訓練する事だった。


 だが、俺の北前船は交易に回したが、他の北前船や、上方から江戸に酒荷を輸送する酒廻船、米や糠などの七品を輸送する菱垣廻船が、穢多頭の弾左衛門と浅草非人頭の車善七に雇われて蝦夷樺太に渡ったのだ。

 いや、彼らだけではなく、富裕な平民も、江戸からできるだけ近く、少しでも寒さの厳しくない有望な原野に入植しようと、酒廻船と菱垣廻船を雇って無宿人を蝦夷樺太に送り込んでいた。


 ここに俺が後で蝦夷樺太に送り込もうと考えていた、奥羽の極貧農民が加わった。

 彼らは何もしないで郷里に残っても、餓死する可能性が高いと自覚していた。

 毎年のように山背が吹いて稲が実らず、不作や凶作になる絶望の中で、衣食住を保証してもらって、十町の原野を開墾する話が伝わって来たそうだ。

 しかも実るか実らないか分からない稲作ではなく、蝦夷樺太でも確実に実る蕎麦や大麦を植えてもいいというのは、彼らには信じられないくらい好条件だったそうだ。


 奥羽の貧農は、領地を逃げ出して江戸に来ようとしたが、商人がそれを止めた。

 富裕な者達が、江戸から蝦夷樺太に無宿人を送るよりも、奥羽から蝦夷樺太に逃散民を送った方が安上がりで、時間もかからないと判断したのだ。

 しかも蝦夷樺太に渡る直前まで奥羽に住んでいる者なら、寒さを凌ぐ道具も持っているし、寒冷地で生きる術も身に付けている。

 俺の預かり知らぬところで、蝦夷樺太の開拓要員が増えていた。

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