第11話、一八二三年、長崎出島利益

 俺はやりたい放題だった。

 各北前船に武芸大会で新たに採用した若党を四人と、目付け役に高須松平家以来の譜代家臣を乗せ、長崎だけでなく清国や東南アジア諸国にまで交易に行かせたのだ。

 その方が長崎出島で蝦夷や樺太の商品を売るよりも、二倍三倍の価値で売れる。

 しかも船頭や若党を航海術に優れた水兵に鍛えることができる。

 もっとも、難破や海賊の襲撃など、死傷の可能性は高いのだが。


「長崎出島での買取価格」

品目 :取引銀高 :輸出斤数:斤高樽高

昆布 :53,126・4匁:159060 :3分3厘4毛から2分1厘5毛

煎海鼠:90,586・4匁:280201・3 :3匁2分3厘2毛

醤油 :40匁   :4樽   :10匁

酒  :275匁   :5樽  :25匁

干貝 :72    :108斤  :6分5厘

干鮑 :5,688匁  :21040  :2匁7分8厘8毛から3匁5分7厘9毛

鱶鰭 :1,680匁  :840   :2匁から2匁3分4厘1毛

鯣  :2,184匁  :1680  :1匁3分

いりこ:207897匁 :6146斤 :3匁3分8厘1毛

鶏冠草:6,300匁  :6000  :1匁5分

小間物:690匁  :5樽

狐皮 :5353匁  :460枚  :1匁6分3厘9毛

計:金換算で約5752両


 普通に北前船で一年かけて日本海を往復するだけで千両以上の利益が手に入る。

 だが、危険を冒して清国東南アジアを巡れば、二年で一隻一万五千両も夢ではないが、その分危険も大きい。

 今の武装では、単艦で行かせるのは危険すぎた。

 武装を強化したうえで、船団を組ませなければいけない。


 武装の強化は急務だった。

 西洋列強と戦い、日本を護るためは、鍛え上げた将兵と、西洋列強に負けない武装は絶対が必要だった。

 だから俺は長崎の出島に使者を送った。

 以前から長崎出島には、反射高炉と洋式帆船の建造のために、技術者を派遣して欲しと言っておいたが、蘭国は条件を良くしようと時間稼ぎをしていた。


 以前は異国に船団を派遣して交易する事も、藩士を派遣して技術者を雇う事もできなかった。

 だが今は、徳川家斉を脅かして許可を貰ったので、日本を出て交易することも、技術者を探しに行く事もできる。

 だから蘭国代表の出島商館長相手にも強気で交渉できる。


 表向きは、蘭国に変えて英国か仏国か米国に、出島の独占使用を認めると脅した。

 同時に、日本を出て清国や東南アジアに交易に行く許可を受けたとも伝えた。

 本音を言えば、欧米列強の中では比較的弱い蘭国から、西洋列強でも際立って強力な、英国、仏国、米国、露国に出島支配を変える事はできない。


 だが交渉でそんな考えを読まれるわけにはいかない。

 交渉役に行かせた高須藩の家老には、出島を任せる異国を、俺が本気で変更しようとしていると思わせた。

 その強気の交渉が功を奏したのか、出島商館長は反射高炉建築と西洋帆船建造の技術者を高須藩に派遣してきた。

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