第7話一八二三年、上様脅迫

「上様、人払いをお願い致します」


「大袈裟だな。

 今迄は、東照神君の御告げだと言っても、人払いなど求めなかったではないか。

 それを今日はどうした事なのだ」


 俺は上様を脅かすことにした。

 松前藩主として、利益の五割を運上金として納めない、北前船の蝦夷と樺太への立ち入りを禁止したのだが、それを守らない者が多数いたのだ。

 俺が商人達を闕所処分にしようとしたのだが、それを徳川家斉の父、徳川家基公殺しの徳川治済と、その手先の老中水野忠成が邪魔をしたのだ。

 だから、本気で家斉を脅かす事にしたのだ。


「本当に家臣達のいる前で話しても宜しいのですか。

 許し難い大逆の罪でございますよ。

 神になられた東照神君に、隠し事ができると思っておられるのですか。

 死して後、永劫の地獄で苦しむことになりますよ。

 既に先に亡くなられた上様の御子達は、東照神君の怒りで地獄に落ちて苦しんでおられますよ」


 俺の脅しに何を言われるか思い至ったのだろう。

 家斉は徳川家基公が毒殺されてから、ずっと罪の意識に苛まれ続けていたのだ。

 俺が新生児に解毒剤を禁止し、初乳を飲ませるようになって改善しているが、家斉は多くの子供を儲けているのに、夭折している子供の方が圧倒的に多い。

 家斉はそれを徳川家基公の祟りだと思っていたのだろう。


「斉恕。

 お前は何が言いたいのだ」


「本当にこの者達がいる前で話して宜しいのですね。

 それでなくても、上様の血脈は東照神君の怒りと、家基公の祟りで数代を経ずして絶える事が決まっているのです。

 ここで上様が東照神君の御告げを邪魔し、徳川家を滅ぼすようなことになれば、永劫の地獄を生きることになりますぞ」


「下がれ、全員我らの前から下がりおろう」


「太刀持ちの小姓も下がらせてください」


 もう手遅れだろうな。

 ここまであからさまな言い方をしたら、一橋治済が徳川家基公を毒殺した話だと、徳川家斉に近い者なら誰でも察するはずだ。

 それにしても、俺もよくこんな事が口にできたものだ。

 基本臆病者の俺は、前世では言いたいことが言えない生き方をしていた。

 事前に何度も練習した事もあるが、何よりも効果的だったのは、父と祖父に付き添って貰った安心感だろう。

 そうでなければここまで流暢に厳しく言い張れなかった。


「東照神君の御告げを邪魔する、大逆の主君殺しの一橋治済と、その手先の老中水野忠成を処分していただきたい。

 さもなければ、東照神君の御告げとして、一橋治済が徳川家基公を毒殺した事、三百諸侯に告げますぞ。

 その事を知りながら、平気な顔で将軍の位を盗んだ恥知らずと、上様が東照神君から子孫であることを認められていない事、三百諸侯の告げますぞ」

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