転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第1話プロローグ

 俺は転生した。

 そこが歴史を遡っただけの世界なのか、それとも俺の知っている世界によく似た、多元宇宙の別の世界なのかは分からない。

 ただ確かなのは、俺が前世の記憶を持ったまま転生できたという事だ。

 とても有利に生きられそうで、実にあり難い話だった。


 俺が転生したのは、日本の江戸時代末期だった。

 天保の前、文化の後、文政といわれる時代だった。

 しかもただの平民庶民ではなく、大名の長男に生まれることができた。

 美濃国高須藩松平家三万石の長男に生まれることができたのは、運がいいと思う。

 徳川家定や徳川家茂に生まれることができていれば、歴史を変えるのは簡単だったかもしれないが、そこまで願うのは欲張り過ぎだろう。


 正直前世ではほとんど努力をしてこなかった。

 幸せなような不幸せなような。

 夢がかなったような、かなわなかったような。

 多くの事を我慢して、悔しい想いは山ほどしたが、もっと努力していればよかったと思える、何とも言えない自業自得の不完全な人生だった。


 だが、努力ができるというのも才能なのだと思う。

 持って生まれた怠け者な性格は、どうしようもないのだと思う。

 ただ、地位や立場が人間を作る場合もあるとも思う。

 俺も長男だからと言われ続けたことで、長男であるための努力と我慢はしてきた。

 高須松平家の長男として生まれ、次期藩主となれば、それなりの努力を続けられるのかもしれない。


 歴史を知っているという事は、重い現実を知っているという事だ。

 これから日本が経験する動乱の幕末。

 俺の視点考えでは、日本の将来を誤まらせた政権交代だったと思う。

 時間をかけて準備をしていれば、もっといい政権交代ができたはずなのだ。

 田沼意知が殺された事と、田沼意次が失脚した事は、日本にとって大損失だった。

 いや、徳川家基が一橋治済に暗殺されていなかったら、日本はもっと好い国になっていたと、俺はずっと思っていたのだ。


 だが今回はその時代に転生できたわけではない。

 俺の自由な意思で好きな時代に転移や転生ができるわけではない。

 この世界のこの時代に、今俺ができる事をやるしかない。

 幕末の動乱、最初の黒船に対する対応に全力を尽くさなければいけないが、その前に医療改革と飢饉対策をしなければいけない。


 幕末の日本を襲う天保の大飢饉と疫病を知っていて、それを見過ごせるほど、俺は無神経でも強くもないのだ。

 日本には色々な疫病が流行ってきたが、幕末は開国した事で欧米から致死率の高いコレラが入って来てしまった。


 コレラに対する対策と、これまでから何度も日本で流行した麻疹と天然痘、更には日本中に蔓延している梅毒と労咳とよばれている結核。

 俺には特効薬を開発する知識や技術はない。

 だが、種痘はやれるから、天然痘に対する対応は可能だ。

 公衆衛生の知識もあるから、流行を抑える事も不可能ではない。

 経口補水液の知識もあるから、死者数を減らす事もできるはずだ。






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