10 ときめきの章

最後のアップルパイ

「雪男と雪女は、結ばれない。

大昔、雪男と雪女の始祖は、女神が残していた最後のアップルパイを、食べてしまってね。女神は大いにお怒りになり、


『永遠に、雪男と雪女は結ばれないようにしてやる!』


と呪いをかけた。

それ以来、雪男と雪女は結ばれることが無かった」



自称雪女の彼女は、遠い昔の伝承を僕に教えてくれた。


「あなたは雪男の系譜。残念ながら、あなたとは結ばれないの」

「ぼくが雪男だって?!」

「わたしね、雪女の系譜だから、解るのよ。あっこいつ雪男の系譜だって、寒いの得意でしょ?」

「うん、得意」

「暑いのは苦手」

「うん、苦手」

「雪を見たら、ををををををををーってなる?」

「ををををってなる」

「ほら、他にも当てはまるとは思うけど、わたしの直感は間違いないと思うよ。

ほらあっこいつ雪女ぽいなってのあるでしょう。

そう言う時ってほとんどが正解なのよ」



ぼくは、色々言葉を探したが何も見つからなかった。

変わった女子だとは思っていたけど・・・雪女って!

そしてぼくが雪男って!


でも彼女は、良く見ると雪女ぽい。

可愛いけど、どこか冷気を感じる。



彼女は、唖然とするぼくの目の前で、美味しそうなアップルパイを食べた。


「雪男と雪女の始祖は、女神が、楽しみにしていた最後のアップルパイを勝手に食べる快感。

例え罰を受けようとも止められなかったのね」


「いやいやいやいや、その伝承が本当だとしても、そんな大昔の呪い、もう無効でしょう!」


「でもね、実際、わたしが調べた限りでは、雪男と雪女の系譜は、だれも結婚に至ってない。必ず不幸が降り注ぐの、それ位女神の呪いは強力なんだと思うよ。なんてったって女神だからね」


「だとしても納得が行かない。そんな大昔の呪いに縛られるなんて!」

「その呪いさえなければ、わたしだって、あなたと付き合ってもいいのよ」



『あなたと付き合ってもいいのよ』

ぼくはこの言葉を聞いて決意した。

そして僕は女神に呪いの撤回を求めて、旅に出ることにした。


そんなぼくに雪女の系譜の彼女は、メモをくれた。

女神がいる神殿に関するメモだ。


「女神の神殿を知ってるの?」

「雪女としての常識の範囲だけどね」



女神の神殿を探す事、半年。

ぼくはとうとう女神の神殿に辿り着いた。


さらに待つこと1週間、ぼくはついに謁見のチャンスを手に入れた。



女神の神殿は、石造りのまさに神殿だった。

ぼくは石の椅子に座ることを勧められた。


現れた女神は雪女の彼女とは対照的に、温かい微笑を浮かべていた。


「貴方は、雪男と雪女に対する呪いの件で来たと?」

「はい、例えぼくらの始祖が、女神さまのアップルパイを食べたとしても、ぼくら個人には何の関係もない事だと思うんです」


「そう言う事じゃなくてね」

と言うと女神は優しい表情を少しだけ消して、話を続けた。

「始祖だけの話じゃなくてね。系譜の話なの」

「系譜?」

「先週もね、わたしが食べようとしたアップルパイを、雪女に食べられたの。

そしてその犯人はあなたの彼女!」

「えっ!」

だから女神の神殿の事知ってたのか!

「それを止めてくれれば、わたしだって呪いは解いてあげるよ」


なんてこった!

雪女の系譜は、始祖以来ずっと女神のアップルパイを食べ続けていたのか!

そりゃあ呪いは解かれない。


女神は優しい瞳でぼくを見つめると、


「雪男の系譜の貴方が、そのわたしのアップルパイを奪う事より魅力的になって、アップルパイより素敵と思わせることが出来たら、きっとあの雪女も止めると思うの、どお?わたしに出来る事は協力するよ」


「やります!必ず魅力的な雪男になって魅せます」


「期待してるよ」


こうしてぼくは魅力的な雪男に成るための、修行の旅に出ることになった。

必ず雪女の彼女が、アップルパイを忘れる程、惚れさせてみせると誓って。



おしまい

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