迷宮図書館

健野屋文乃(たけのやふみの)

1 始まりの章

柿の木の悩み


「いまだにあの時の恐怖は、忘れる事が出来ません。」


と柿の木は、唯一の親友の猿に相談しました。




猿は柿の木の天辺に登り、柿の木の悩みを親身になって聞いていました。


柿の木は

「あの蟹はまだ私が、新芽の時から

『早く大きくならないと、はさみでちょん切るぞ』

と脅し続けたのです。生まれたばかりの私に、

そのような蟹の横暴に精神的に対抗する手立てはありませんでした。」

と言いました。



猿は完熟した柿の実を1つ取って食べました。

その柿の実は親友の猿のために、柿の木が特別に精を込めて実らした柿の実でした。


秋の優しくなった太陽の日差しをいっぱいに浴びたその柿の実は、格別に甘く、そして柿の木の猿に対する想いが、いっぱい込められていました。



そんな柿の実を食べる猿は、いつもより逞しく見えました。

猿は柿の種を遠くに投げました。



そして

「まだ種だったお前と、蟹の持っておにぎりを、腹が減ってたとはいえ、交換してしまったおらにも責任がある。

心配するなおらが何とかしてやる。」


と言いました。

 

猿にとって柿の木は危険な狼から、逃れるための大切な木でした。

猿は柿の木のおかげで何度も命拾いをしました。



猿は

「今度はおらが柿の木のために、恩返しをする番だ。」

と決意しました。



猿と柿の木は、秋の優しくなった太陽の日差しの中で、友情を確め合いました。




これが、世に言う『猿蟹合戦』の始まり・・・かな?

  

 

おしまい

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