φとπの12年

無口な少年φが、雨の日の帰り道を歩いていると、すぐ目の前でいつも真面目な雰囲気を漂わせている学級委員長の少女πが、何かに躓いて勢いよく転んだ。


無口な少年φは、学級委員長の少女πと、そんなに親しくはなかったので、水たまりで水浸しの学級委員長をよけ、無言で立ち去ろうとした。


ふと振り返ると、学級委員長の少女πは、少年φを見上げていた。


真面目な学級委員長の少女πとは、思えないほど、その視線はホラーじみていた。


「幼稚園の桃組以来、幾多のクラス替え&進学を乗り越え、ずっと同じクラスだった私に対して、それはないんじゃない?今年で12年目だよ!

φ・・・君の中に愛はあるの?」


少年φは、長い事考えて答えた。


「ない。思い当たるとこもない」


水浸しの少女πは立ち上がると、

「φ・・・ちょっとその場で跳んでみて」

と学級委員長としてあるまじき台詞を言った。


少年φは素直に、ぴょんと跳んで見せた。


すると学ランの内ポケットから、不思議な音がした。


少女πは、少年φの学ランの内ポケットから、何かの欠片を取り出した。


「あるじゃない、12年分も」


「12年分?」


「12年分の愛。あなたが贈るべきだった愛。

私が受け取るべきだった愛。」


少女πは、その欠片を自分に振り掛けた。


すると少女πの可愛さが、120%アップした。


「ふふん」


少女πは微笑んだ。




おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る