Twitterに投稿してるショートショート集

蛇穴 春海

移し テーマ「触れる」

ボクらは元々体温が低かった。周りの大人達が言うように、ボクらはお人形さんなのかも知れない。

そっと右手を差し出す。すると目の前でボクと全く同じ白さをした左手が差し出され、優しく触れ合った。

「冷たいね」

赤茶色の髪が揺れて茶色い瞳がチラリと覗く。何かを示し合わせたわけでもなく、互いのおでこを合わせた。

「冷たいね」

自分で自分の体に触っても冷たくないのに、そっくりな体なのに、それでもお互いがお互いに触れ合うと冷たいと感じる。それが何だか面白くて、ボクらは笑い合った。

少し前に一心同体だとか一蓮托生だとかいう言葉を本で知った。詳しい意味はわからなかったけれど、何となくその言葉はボクらを表すものなんだって思った。

ボクらは何処にいても何をしても一緒だった。そしてこれからも、ずっと。

空いた左手を差し出した。するとさっきと同じように今度は右手が差し出され、優しく触れ合った。

「冷たいね」

同時に笑みが溢れ、くすくすと声を出し合う。

たったこれだけのことでボクらは楽しくて、幸せで、満たされた。

「──、」

ボクの名を呼ぶ母さんが見え、ボクらは振り返った。

「なに?」

「……」

ボクらがこの場から動く気がないとわかると母さんは近くまで来て座り込み、そっと抱きしめた。

母さんはボクらと違っていつも温かい。これが普通の人の体温なのかも知れない。ボクらにはない温もりだった。

両手は冷たく、背中は温かいという不思議な感覚がするが嫌ではなかった。だからなるべく体勢を変えないように首だけを正面に向けながらもう一度聞いた。

「なに?」

「……」

「母さん?」

「……」

黙りっぱなしなことに不安を覚えたのも束の間、ボクらを抱きしめながら静かに流れていく涙が見えた。

「どうしたの? なんで泣いてるの?」

「……ごめんね、ごめんね」

抱きしめられてなかったら聞こえてなかったと思うくらい小さく震えた声で母さんは何度も謝った。

なんで謝ってるのだろう、別に泣くことは何も悪くないのに。そう伝えると母さんは抱く力を強めて更に泣いて謝り始めてしまった。

母さんを泣かすつもりなんてなかったのに。どうしたら泣き止んでくれるんだろう。

「ごめんね、ごめんね」

涙の止め方もごめんねの理由もいくら考えてもわからなくて、ボクらは母さんが落ち着くまで黙って見つめ合うことしか出来なかったのだった。

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