今宮戎神社
境内は静かで、「有名どころだから」と言った友達の言葉を、私は少し疑い始めていた。
「人いないね」
「行事のない神社って、こんなもんだよ」
だけど友達はあっさりと答えて、スマホをいじり始めた。画面を盗み見れば、どうやらカレシと連絡を取っているようだった。
「なんか工事してる」
「ああ、だから余計なんや」
スマホをしまって、ようやく境内を見渡した友達は一人納得していた。
だだっ広い砂地にどこぞの公園を思い浮かべ、一瞬、神社にいるということを忘れかける。拝殿と思わしき建物が工事中なのも、神社らしさを感じさせない要因に違いない。
「何で有名なとこ?」
「十日戎。戎神社でよくある行事で、商売繁盛を祈願する、祭りみたいなやつ。露天がすごいんよ。それ目当てに、子供の頃はよく来てたんだ」
私たちは手のお清めもすませて、人気のない境内を拝殿に向かって進んだ。
「今は、なんだろ。福娘?」
「なにそれ」
「挨拶回り? よく知らない。やったことないから。応募してみる? 今、応募してるんじゃないかな?」
「へー」
気のない提案に、気のない返事。すれ違うカップルとは大違いのテンションだ。
大してテンションも上がらないまま、工事中の拝殿の前に立つ。一呼吸して気持ちを整え、参拝する。一礼で締め括ろうとして、ふとある疑問が過った。
「商売繁盛?」
「まあ、アルバイターには関係ないかもねー」
一足先に参拝を終えた友達が、笑いながら言った。そしていたずらっ子のような顔をして、お財布からなにかを取り出した。
「でも、これは関係ある」
翳された白い袋には、赤字で今宮戎神社と書かれていた。
「お守り?」
「そう。種銭~」
友達は種銭なるものを揺らして、実に楽しそうだ。
「種銭ってなに?」
「お財布に入れてると、お金を呼び込んでくれるの~」
「ああ、五円玉みたいな?」
「そう!」
きらきらした目でこちらを振り向いて、友達は種銭を握りしめた。
浮き足立つままの勢いで社務所に向かう、友達の背後に付き従いながら、御朱印帳を用意する。この手間をパパっとできないかと常日頃思っているが、なかなか良い案が思い浮かばない。御朱印用の肩掛けバックを用意するかと思いもしたが、バッグを二個持つことへの抵抗感がなかなか拭えず、実現できていない。かわいいバックを見つけもしたが、それも待ったをかけたままだ。金銭的な余裕がないことも、二の足を踏む要因だった。
先に授与を終えた友達が、脇にそれて種銭を眺めている。キスをしそうな勢いで喜んでいることに、ちょっと引いた。だけどそこまでテンションが上がるならと、御朱印を待つ間に私も並べられた白い袋の中から一つ選んだ。
これで金銭的余裕が得られる可能性が増えるなら、願ったり叶ったりだ。
友達のようにテンションが爆上げしないにしても、ちょっとしたワクワク感に包まれながら、手の中の種銭を見やる。
これをお財布に入れれば、お金を呼んでくれるのか。なんて、目に入った文字に、首を傾げた。
「ねえ、商売繁盛って書いてあるよ?」
「何っ!?」
静かな境内に、友達の声が弾ける。友達の顔が、ショックに歪んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます