橿原神宮
白い砂利の広がりに、思わず声をあげそうになった。
白く大きな鳥居は改修中で見れなくて残念だったけど、境内でこんな広がりを目にできるなんて。知らなかった風景に、一気にテンションが上がった。
「まるで平安神宮みたいだね」
「確かに。あそこも真っ白だったね」
「何? その幼稚園児みたいな感想」
「素直に感動してるの!」
曇り空の下でも白砂利は、ここが聖域であるこを明示している。
私と愛奈は白砂利を噛み締めるようにゆっくりと歩きながら、拝殿に向かった。
「あ、大きな絵馬があるよ!」
「ほんとだ。まだ飾ってるんだね」
青い亥が描かれた大きな絵馬は、拝殿の脇に飾られていた。その堂々たる姿に、笑みがこぼれた。
一月の後半。あの大きな絵馬は、三が日だけの風物詩だと思っていた。
「あとで写真とらない?」
「いいね、記念になるね」
愛奈もテンションが上がっているようで、自然と笑顔がこぼれていた。
駅からここまでの間に、一度不機嫌になったとは思えない。列に並んで埴輪まんじゅうを買おうとした私も悪いけど。
参拝をして階段を下ると、晴れ着に身を包んだ親子とすれ違った。その腕に抱かれた赤ん坊に、頬が緩む。
「七五三かな?」
「いや、まだ生まれたばかりでしょ、どうみても。お宮参りじゃない?」
「って、なに?」
「生後一ヶ月くらいで、氏神さまに紹介するんだって。挨拶回りみたいなものだよ」
枕詞の余計なツッコミを忘れて、思わず、感心してしまう。
「よく知ってるね」
「常識だと思ってた」
愛奈の最上級の猫なで声に、神経は逆撫でされた。
「冗談だよ。この前、いとこが行ったって言ってたから」
愛奈は舌をだす愛らしいポーズで、すべてを流せると思っているらしい。だけど私の怒りが収まるわけもなく、その頬を引っ張った。
「ふぇま! ふぇ馬、忘れてる!」
「そうだった!」
愛奈が絵馬を指し示して、気づいた。頬を放し、振り返る。
絵馬の前には、女子二人組が並んで立っていた。ピースでポーズを決める二人を、階段の中腹でカメラを構えたおばちゃんが写真に納めようとしている。
それを私たち同様、さっきの夫妻も楽しそうに眺めていた。その付き添いのおばちゃんの手にはやはり、カメラがあった。どうみても、順番待ちだ。
「休憩所、先にいこうか」
「そうだね。疲れたし」
境内の端にある休憩所には、ぱらぱらと人がいた。見渡して、手頃な席に腰を下ろす。
「チョコ食べる?」
「食べる! よかったね、飲み物買っておいて」
「そうだね」
乗換駅の待ち時間に買ったジュースとチョコで、一息つく。チョコはさっきのご機嫌とりだと、瞬時に悟った。だから遠慮なく、二つ摘まんでその甘さに酔った。
「あ、晴れてきた」
愛奈の声に顔をあげる。窓の外を眺めた。
薄暗かった境内に徐々に光が刺す。それは雲が風に流れていき、頭上に太陽の光が降り注いでいることを知らせてくれた。
それはまるで空を見つめているような、明らかな変化だった。
「すご」
こぼれた感嘆はやっぱり幼稚園児みたいだったけど、私と同じようにその風景に見とれた愛奈にツッコまれることはなかった。
「そういえば、何かに書いてたね」
ぽろりと、愛奈の声がこぼれる。
「光のパワースポットって」
白い砂利に反射する太陽の光はまるで、私たちの未来を明るく包み込んでくれているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます