大神神社①



 大きな鳥居を前に、足がすくむ。


「なんか緊張する」

「はじめてなんだっけ?」

「私は二回目~」


 私を挟んで、友達2人は実に楽しそうだ。


「そうだけど、霊験あらかたっていうじゃん!」

「霊感ないじゃん」

「関係ない、関係ない」


 右そして左から聞こえてくる声に、不安は掻き消された。そのかわり、気分が落ち込む。

 何ヵ月も前から計画していた大神神社参拝。1時間半かけてたどり着いた場所は、思ったよりも奥地だった。鳥居を潜る。今から山の中に踏み込むような、緊張感。自然の中、砂利道を進む。参道は広く、長い。緊張に口数が少なくなった私をよそに、2人はとても楽しげに会話を弾ませていた。頭上で繰り広げられる会話に、私は一切入り込めない。

 徐々に解けてきた緊張に、回りを見る余裕がでてきた。

 古札所なるものを通りすぎ、さらに奥へ進む。


「お守り、持ってくれば良かった」

「やっと喋ったね」

「怖がりすぎでしょ」


 静かな参道に、美優の笑い声が響く。美優は女子にしては身長が高く、低身長な私と10センチ以上の身長差があった。見上げ続ければ、首が痛くなる。だけど頭上で笑い声を聞くのも、本当にバカにされている気がして腹立たしい。笑い声を払うように頭上をはたいている間に、頂上に着いた。ここに来て私と朋子は、若干疲れていた。バレー部の美優は息切れひとつない。

 さらに石畳を進み、拝殿の前に並ぶ。茶道部である朋子の姿勢のよさを見習って、少しずつ背筋が整いだしたお辞儀。最近は気持ちが引きずられるようになって、少しだが心が落ち着くようになった。これで手を合わせる頃には息は調わないまでも、さっきまでの笑い声を忘れることができるようになった。


「御朱印もらってきて良い?」

「私、おみくじ引きたい」

「稲荷神社に参拝」


 参拝を終えた私の提案に、朋子と美優が言葉を重ねる。

 石畳から反れたスペースで、睨み合い、笑い合う。


「じゃーんけーん」


 私の掛け声に、三者三様、拳を突きだす。そして、振り下ろす!

 グー、グー、パー。


「よっし、出発~」


 私と朋子は顔を見合わせて、意気揚々と先導する美優に、仕方なくついていった。少し進んだところで、朋子の足が止まる。 


「なんか、この木、賽銭箱あるよ?」

「ほんとだね」


 言葉につられて、美優の足も止まる。


「お稲荷さま~」

「ちょっとくらい良いじゃん!」


 ごねる美優を横目に、私と朋子は大きな樹木に近づいた。樹木にはしめ縄が巻かれている。


「なに祀ってるんだろ?」

「白蛇様だって」


 朋子は木の板を指しながら教えてくれる。そこには巳の神杉と書かれていた。木の囲いの外には簡易な棚があり、そこには卵が数個、お供えされている。その奥に賽銭箱があった。よく気づいたものだと思う。

 ご神木にむかって3人居並ぶ。一礼して、5円玉を納める。横で美優がお財布を広げた。


「5円玉足りるかなー」


 ぼやきと一緒に、小銭が引っ掻き回される音が聞こえた。

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