壬生寺①
大宮駅から、歩いて20分。
「歩いて10分て書いてある」
「……迷ったね」
事前に調べた地図を見、顔をあげる。
ちょっと先にある高架を電車が通過した。
「でも近くない?きっとこの高架はコレのことだろうし」
「さっき人が並んでる店があったよねー。何の店だった?」
「鮮やかな壁だったよねー。何のお店かわかんないけど、飲食店じゃない? 並んでるのOLさんとかサラリーマンぽかったね」
地図で一生懸命、現在地を推測していた友達――真歩が、私の顔を見た。
「まさか、お腹減ったの?」
「お昼だからねー」
考えることを放棄した私にため息をつくと、真歩は地図をしまった。
「多分、道一本間違えただけだから、すぐ着くよ! お昼はそのあと!」
地図の代わりに私の腕を掴んで、真歩は歩きだす。引きずられるようにして入った小道は、部外者の立ち入りが許されないような住宅街だった。
少しの戸惑いを感じていると、すぐにどんつきに行き当たった。
左にあるはずがないと少し迷って、右に行くことに決める。通りすがりの自転車に乗ったおじさんが、不思議そうに私たちを眺めていた。
少し歩くと長く続く漆喰の壁を見つけた。
「ぽいね」
「ぽいぽい!」
二人して歩調を早めて、細道を行く。
少しずつ空気が変わっていってる気がして、気持ちが高ぶった。
「ここだよ!」
頬をピンクにして、真歩は振り返る。その背後には少し高めのいじらしい門があった。
真歩はさらに強引に私の手をひくと、息巻いて中へ入ろうとする。
私は慌てて踏ん張ると、真歩の腕をつかんだ。
「待て!せっかくだから正門から入ろう!」
目を丸くして私を見つめる真歩に、視線で後ろを見るよう促す。
中を覗けば、ここがお寺の正面でないことは明白だった。
「そうだね」
我に返った真歩は私の手を離すと、さらに先に続く一本道を指差して、こっちかと訪ねてきた。頷きとも捻りともとれない動きで返事をすると、分かったと言って進みだす。私はそれについていった。
少し歩くと、またどんつきに行き当たり、私たちは漆喰の壁に従って角を曲がる。するとすぐに壁は途切れ、視界が広がった。
荘厳な門を見上げる。
そこには壬生地蔵尊と書かれていた。
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