扇風機
赤茄子
第一話
ニュースキャスターが今日起こった出来事を淡々と伝えている。
東京で今年初の真夏日が記録されたらしい。テレビの画面に映し出されるのは、どこかの公園の小さな噴水。はしゃぐ子どもたちの無邪気さと、はじける水の滴が眩しい。
私はそれを尻目に自室のクローゼットに頭を突っ込んだ。空気が少しだけひんやりとしていて心地よい。かすかなホコリの匂いも、不思議と不快には感じない。
冬服を乱雑に詰め込んだ大きな袋を端に寄せていくと、暗闇のいちばん奥にカドの潰れた古い段ボール箱が顔を出した。小さなクローゼットを圧迫するソイツを、腰に力を込めてゆっくりと取り出す。ホコリが舞って気管をくすぐった。
鼻がむず痒くなるのを我慢しながら箱を開ける。中から姿を現した十年ものの扇風機がホコリを吐き出すと、私はたまらずくしゃみをした。
梅雨入りから間もないある日の夕暮れ。扇風機のプラグをコンセントに差し込み、私は夏の暑さに白旗を挙げた。
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