まおうさまと暮らしています

az

プロローグ

魔王が勇者に討伐されたらしい___


そんな話を風の噂で耳にした。私の住んでいる町は田舎で、魔物の被害も無く平和に暮らしていた。だから、魔王が討伐されたなんて話は私には関係がないのだが…。


魔王がいた城はどんな所なんだろう、そう考え始めるとワクワクする。私の眠っていた冒険心を駆り立てる。もう我慢なんて出来ない


''魔王が居なくなった城を見てみたい''そう思った私はワクワクする気持ちを抑えられず、ある程度の荷物を持ちすぐに家を飛び出した。「お待ちください!レティシアお嬢様!」召使い達がそう呼び止める声など聞こえないフリをして、私は主の居なくなった城へ向かうのだ。


魔王がいた城は私の住んでいる地域からは離れている。とてもじゃないが歩いて行ける距離ではない。「何も考えずに家を飛び出してしまったけど...」困ったように思わずポツリと呟く。そんな私を見て1人のおじいさんが声をかけてくれた。「どうしたんだい?お嬢さん。何かお困りかな?」優しそうな笑顔のおじいさんだ。「実は、魔王が倒されたと噂の魔王のお城を一目見てみたいの。だけれどそこまでの移動の手段に困っていたの。」おじいさんに相談してみるとおじいさんはうーんと唸り「声を掛けたのも何かの縁。なら、ワシの馬で近くまで送ろう」「本当ですか?!」私は思わず声を張り上げてしまう。「近くまで、だけれどね」おじいさんは笑って言ってくれた。「ありがとうございます」私は深々とお辞儀をしてお礼をした。「さぁ、行こうかお嬢さん」そう言っておじいさんは私に手を差し出してくれた。手を取り馬へ乗せてもらい、私はおじいさんの後ろへ座る。「しっかり捕まってるんだよ」「はい」私が答えると私とおじいさんを乗せた馬は魔王がいた城へ走り出した。


_____「ワシが連れて行けるのはここまでだ。魔王の城はこの先真っ直ぐ行ったところにあるよ。」馬を止めたおじいさんは森の道の先を指差して言った。「ありがとうございます。」私はお礼を言って馬から降りる。__この先に...ワクワクした気持ちで道を見ていると「気をつけるんだよ」とおじいさんが声をかけてくれた。「お世話になりました」私がぺこりとお辞儀をすると、おじいさんは馬と共に去っていった。その後ろ姿はなんだか小さな少年のように見えた。「...目の錯覚かな...?」目を擦りもう一度おじいさんが去っていった方を見ると、そこにはすでにおじいさんの姿はなかった。


私はしばらく森の道を歩いた。辺りはすっかり暗くなり月明かりだけが道を照らす。「...あっ」私は思わず短く声を吐く。目の前に現れたのは、大きく立派な城。だけど、まるで廃墟だ。最近まで魔王がここにいたなんてにわかには信じられない程に朽ちている...。「本当にここなの...?」私は城へ近づきまじまじと観察してみる。「不思議...、ボロボロなのにすごく綺麗」月明かりに照らされたお城は美しくも妖しくとても魅力的に思えた。しばらく城の周りを探索していた私は、城の中へ入る為の扉を見つけた。開くと壊れてしまいそうな扉...。私は壊さないよう、ゆっくりと扉を開き中に入った。城の中には大きな祭壇が。それ以外は何も無い...。殺風景で悲しい空間だ。私は祭壇に近づく。すると突然「誰だ!」と子供のような声が部屋の中に響き渡る。「!?」私はびっくりして辺りを見回す。そうして先程私が入ってきた扉の前に子供が立っているのを見つけた。その姿は普通の人間とは思えない。姿こそ人間だが、背中に大きな翼がはえお尻にはトカゲのような尻尾。頭には角がはえている。その子は私の方に歩み寄ってくる。まずい___私は逃げ道を探し辺りを見回すが、あの扉しかなさそうだ...。「逃げようたってそうはいかないぞ!侵入者め!」「ごめんなさい...、少し興味があったの、悪いことはしてないわ。本当よ」私は必死に謝った。「ふぅん」子供は疑いの眼差しを私に向けてくる。よく見るととても可愛らしい顔をした少年のようだ。どうしてこんな所に居るんだろう...他の魔物は消え去ってしまったようなのに...。「ねぇ、君はどうしてこんな所にいるの?」疑問が口をついて出てしまう。「ボクはパパがいたこのお城を守りたいんだ。」少年は素直に答えてくれる。「パパ...?」「そう、パパ!ボクのパパは世界一強い大魔王様だったんだぞっ!」トカゲのような尻尾を揺らしながら自慢げに語る姿は、とても可愛らしかった。「ふふっ...そうなんだ、じゃあ、君も魔王様?」「そっ!とっても強いまおーさまになる予定なの!」少年は腕を組み自信満々に胸を張る。...かわいい。私は小さい子がとても好きだ、とてもかわいい...。「ねぇ、今日はもう遅いわ。今日一日だけここに居させてくれないかしら?」少年ともう少しお話をしていたい、と思った私は少年に聞いてみた。すると、とても嬉しそうな表情を浮かべた少年が「べ、別に今日一日くらいならいいけど!」と言ってくれた。「ありがとう」私は嬉しくなって笑って少年にお礼を言う。少年もかわいい笑顔を私に向けてくれた。


その後祭壇の前に二人で座りゆっくりと話をした。少年の名前がシャロンであること。夢はお父さんである魔王を倒した勇者を倒すこと、と無邪気に話してくれた。私も、私がこの城に来た目的や私が住んでいる町の話色々な話を、少年"シャロン"にした。シャロンはとても楽しそうに聞いていてくれた。


そうしているうちに気付けば辺りはすっかりと明るくなっていた。私は眠そうにウトウトしているシャロンに「それじゃあ、そろそろ帰るわね」と伝え、立ち上がる。「待って...」シャロンは寂しげな表情で私の腕を掴み、すぐに「ごめん...」と言って離した。...、やっぱり寂しいんだ。私は思わずシャロンに「一緒に来る?」と聞いてしまう。シャロンは一瞬戸惑ったような顔をし、考え込んでしまう。シャロンは、この城に縛り付けられている、ひとりぼっちになってもこの城を守らないといけない、と。きっとお父さんはそんな事を願ってはいないのに...。「無理に、とは言わないわ。...でも、外の世界を知ることも、きっと強い魔王様になるには必要な事なんじゃないかな」城の呪縛からシャロンを解放してあげたい、とそんな言葉をかけた。しばらくの沈黙の後、シャロンは黙って頷き私の手を握る。「大丈夫、何があっても私がシャロンを守るわ」不安そうなシャロンにそう声をかけ城の外へ歩み始める。


これは、私レティシアと魔王の子供シャロンの物語だ

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