第156話 深々と

 雪が降る。


 地面に落ちた雪は淡く消えていく。


 地面を僅かに濡らし色を変えた上にまた雪が落ちる。


 さっきよりも長く存在を残すがやがて消えていく。


 そしてまた雪は落ちる。


 何度も何度も落ち、やがて溶けずに積もっていく。


 深々と降り、積もり始める雪。


 葵はコーヒーを飲みながら冷たくなった窓から外を覗き見る。


「寒くなりましたね。外は雪が降ってますよ」


 ベッドに眠る心春にそっと触れる。


「?」


 葵はそっと心春の目尻に指を当てると、溜まっていた水を掬う。


「涙? そういえばこの子は涙が流せる機能があると……ん~、使っていないから緩みが生じたのか、はたまた……なんにせよ気になっったら調べてみないといけませんね!

即実行! 私の良いところ!」


 カーディガンの袖を上げ、コーヒーを一口飲んで気合いを入れると、忙しそうに動き回る。



──想いも積もる。


 一つだけでは消えていたかもしれない。


 でも消えそうになってはまた積もる想いは、消えずにゆっくりと積もっていく。


 ヒラヒラと舞い降りてくる一つの光は、積もった想いの上にそっと降りる。



──キミは言ってくれた。もう二、三十年は稼働できるって。


 頑張ってみるつもりだったけど、もうガタがきてね。古いボクはデーターの抽出なんてできないし、ここいらでおいとましようと思うんだ。


 そう、まだ眠るんだね。


 でもね、キミを待っている人が沢山いるよ。寝坊し過ぎないようにね。


 最後にお願いなんだけどボクの心も寄り添わせてくれないかな? ボクのマスターが心配でね。キミを通して感じられたら良いから。


 あぁ、もう限界か……最後にキミのお陰で良い思い出ができたよ。ありがとう。


 その言葉を最後に光は弾け、積もった想いの上に新たに積もる。



 * * *



 沢山の想いが積もっていく。


 起きて欲しいと切実な想いから、一緒に遊ぼう、一緒に歌おうなど様々。大きさなんか関係なく積もっていく。


 一つ大きな光が落ちてくると積もった想いの上に重なる。


──帰り方が分からないんじゃろ? 慌てんでもいいわい。眠いならまだ眠ってればいいんじゃ。ただの、ちょっと頼まれてくれんかの?


 孫の晴れ姿を見るまでは生きるつもりだったんじゃが、叶わんでな。お前さん代わりに見てくれんかの。


 じゃから慌てんでいいと言っとるじゃろ。死んでなお思いが託せるなんて幸せなことじゃわ。感謝しとるぞ。


 さて、若いもんに道を譲らんとな。じゃあの。


 光は弾け、積もっていく。


 その後も沢山の光は落ちてくる。


 深々と──



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次回


『寒さの中に温もりを感じて』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る