第115話 副委員長心春誕生なわけで ~副副委員長も誕生~

 それは唐突に始まった。


 朝のホームルームも終わりに差し掛かった頃、クラスの副委員長である川内広大かわうちこうだいが「はい!」と手を真っ直ぐ挙げる。


 一瞬担任のテラ先の眉がピクッと動いたのと、珠理亜の頭が少し揺れたように見えた。


「今日の放課後、ホームルームを開催しますので少しの間残って下さい」


 ハキハキと話す真面目そうな男、川内だが最近こいつ苦手なんだよな。なにかと俺に話しかけてくるし、この間のホームルームで俺をひたすら当て続けるし正直怖い。


 放課後に残れと言われたら、普通男子どもは文句を言うはずなのだが何故か皆が希望に満ちた目をしている。


 嫌な予感しかしない……


 一日クラスの男子どもが浮わついている、そんな感じがした。いつも以上に視線を感じながら過ごす一日は過ぎ、放課後を迎える。


 そして始まったホームルームだが、浮かない表情の珠理亜の隣で、無駄にテカテカしている川内が俺を見てニヤリと歯を見せ笑う。


 ぞわっと背中に悪寒が走る。


「川内さま今、こはりゅお姉ちゃんに微笑みませんでした?」


「ありぇは、微笑みとは言わないんでしゅ……わりゅい顔って言うんでしゅ」


 夕華に川内の見せる笑顔の名前を教えたとき、川内の声が教室に響く。


「無駄に時間をとらせてもいけませんから、手短に話します。この度、私川内は副委員長の職を下ろさせていただきます。

 そしてその後任に、梅咲虎雄くんを推薦したいと思います」


 どよっと教室がどよめく。男子たちは喜びの色を多く含んだ、どよめき。

 珠理亜の現状を知っている女子たちは、トラを副委員長の後任に推薦したことへの驚きと川内に対する非難のどよめき。


 トラは突然指名され混乱中である。そして、珠理亜は黙ってる。

 いつもの覇気がないのが気になる。川内が副委員長を下りるのは勝手だが、その後任にトラを指名されたら……それは当たり前か。


 そもそもこの男子どもの狙いはなんなのだ? 珠理亜への嫌がらせか?


 イラッとして不機嫌な顔をする俺を夕華が突っつき、耳打ちしてくる。


「こはりゅお姉ちゃん。これを見てください」


 そう言って見せられた生徒手帳に書いてある学校の規則の、サポーターに係りを任せる方法が記載されている一文。


「先ほどから変態さんたちが、こはりゅお姉ちゃんをチラチラ見ています。呼吸の回数、高揚、血圧の上昇など興奮状態の症状をみせる方も多数います。

 目的はこはりゅお姉ちゃんだと推測されます。おそらくこの規則を利用し、珠理亜お嬢様を利用して──」


「わたちを副委員長にしようというわけでしゅか」


 優秀な妹のお陰で男子どもの目的を知った俺が、珠理亜を見るとやっぱりいつもの元気がない。そんな姿を知ってか知らずか、隣にいる川内が勝ち誇ったように手を挙げテラ先をチラッと見る。


 全く腹立たしい。


「しぇんしぇー!!」


 俺は手を挙げ立ち上がってテラ先をキリッと睨む。

 俺が突然発言したことで静まり返る教室。テラ先は俺に手を広げ発言を促してくれる。


「わたちが、副委員長をやるでしゅ! 


 トリャは今の掲示係の仕事に定評があるでしゅし、忙しいでしゅ。

 なりゃ、シャポーターとして、トリャが指名しゃれた分、わたちがやるでしゅ」


 俺の発言に教室がざわめく。


トラの掲示係に定評があるかは知らないが、真面目にやってるし評判は良いだろう。それよりも今はこの流れを変える為、自ら副委員長になってやろうではないか! 珠理亜を貶めるようなことは阻止してやる。


いりょん異論あるでしゅか?」


「私は賛成だ」


 すぐに俺に答えてくれたのは來実なわけで。


「ついでに、私が心春をサポートさせてもらう。先生いいですよね?」


 席を立つ來実の発言にテラ先は驚くが、すぐに大きく頷く。それを見てフッと笑うと、俺を迎えに来てくれ一緒に教壇へと向かう。


 俺が先に教壇に立っている珠理亜に笑いかけると、微笑み返してくれる。そしてそのまま來実が持ってきてくれた椅子に座る。


 俺の姿を見てざわざわする教室、特に男子。相変わらず慣れないものである。


「おい、川内。席へ戻れ」


 來実が親指を立て席を差し、川内に席にもどるように促すと、逃げるように戻っていく。


「では、本日より副委員長となった心春さん。挨拶をお願いいたしますわ」


 珠理亜に紹介され、俺は椅子からピョコンと立ち上がる。それを見て色めき立つ男子たちがざわつくが、ドン! っと黒板を叩く來実によって一瞬でシュンとなる。


「おまえら静かにしろよ! 副委員長、挨拶を」


 なんかどっかの、ヤバイ事務所の人みたいな紹介され方だが、まあいいだろう。


「今日から副委員長になった、こはりゅでしゅ!」


 俺の紹介に合わせて、來実が黒板に名前を書いてくれる。意外と言っては失礼だが綺麗な字で『心春』と。


「お、大きく書きすぎですわ。黒板係の人が困りますわ」


「ん? 黒板係は私だぞ」


「え? そうでしたの?」


「いや、忘れんなよ」


 俺の後ろで2人がこそこそ話しているが、俺も來実が黒板係だったのは知らない。一学期遅刻ばっかりしてたし、来ても寝てたからな。こんな何気ないところにも成長を感じるぞ。


「いたりゃぬ点もありましゅが、しぇいいっぱいやるでしゅ! よろちくでしゅ!」


 俺の挨拶に、俺と同じくピョコンと席を立った夕華が、キラキラした目でパチパチと拍手をする。


 それに合わせ皆が拍手をしてくれる。


「こはる副委員ちょー! 一生ついていきます!!」

「かわいいっ! かわいいっ!」


 そして一部の男子が興奮を押さえ切れないのか叫ぶので、


「うっさいでしゅ! そんな言葉はいらないでしゅ! キモいでしゅ!」


 キレる俺を見て更にうっとりする男子どもだが、再び來実が黒板を叩きシーンと静寂が訪れる。


「静かにしろよ。副委員長の挨拶の途中だろ」


 いやもう終わったんだけどな……とも言えず、


「えっと……頑張りましゅ!」


 それだけ言って席につくと再びパチパチと拍手が起こる。


 よく分からない流れで副委員長となった俺だが、やるからには頑張ろうと思う。優秀な委員長と副副委員長もいるしやっていけるだろう。


 だがこのとき、俺は男子の変な視線に混ざって、熱い視線を俺に送る人がいることに気付いていなかったのだ。


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 次回


『文化祭の出し物は決まるが鋭い視線を感じるわけで』


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