俺は最新でお前はかつての俺なわけで ~心春な日々~

功野 涼し

心春誕生でしゅ!

第1話  俺最新になるわけで

 2✕✕✕年。近未来ではAI搭載のアンドロイドが普及し小金持ちの家庭ならアンドロイドに家事を任せるなんてことも出来る。


 まあ我が家は縁がない話だが、天才の俺ならオリジナルアンドロイドを作ることだって不可能じゃない。それも誰も作ったことのない、オリジナルかつ、最新のやつをね。


 俺の名前は 、梅咲うめさき 虎雄とらお


 高校2年生。見た目は悪くないと思ってるが、モテたことは1度もない。

 そもそもモテることに興味はない。俺が欲しいのは可愛い恋人ではないのだから。


 欲しいのは可愛い妹だ!!


 中学3年の15才の誕生日に妹が欲しいと両親にお願いしたらなんか父さんと母さんが余所余所しくなってしまった。


 貰えないなら作ってしまえば良いのだ。そう思い立った天才の俺がジャンクパーツをかき集め、お年玉やお小遣いを貯め、買ったパーツを組み立て生み出した理想の妹が今、俺のベットに寝ている。


 黒い髪は肩まであり、肩上のストレートボブ、今は瞼を閉じて見えないが瞳は薄い茶色である。

 体の方はネグリジェを着せ、毛布をかけているのでほぼ見えないが背丈から小学低学年程度の設定だ。


 そして大事な拘り。動けば良いわけではないのだ。細部まで拘り抜いたこの理想の妹。肌の質感や……まあ色々だ。あんまり説明すると逮捕される可能性もあるから自重しよう。


 女性経験がない俺がなぜ、細部を作れたか? そんなの参考書とか参考動画で見たに決まってるだろ。男なら1冊、1枚、1本は持ってるやつだ。


 そして拘りポイントはこれだけに留まらない。


 俺は妹から「お兄ちゃん」じゃなく「おにい」と呼ばれたいのだ! 舌足らずな感じがたまらなく良い!


 なので舌足らず機能が搭載されている。


 そして次の拘りポイント! 妹に搭載するAIは、必要最低限の事しか学習させていない。

 ちょっとアホの子に俺が常識を教えて「おにいたん、しゅごーーい!」とか言われる予定なのだ。

 そして俺の作った最新AIを搭載させておきながら、敢えて処理能力を下げてある。

 俺の天才的問いに一生懸命考えて「わかんなーい、教えておにいたん」とか言われるってわけよ。


 おっと、ヨダレが…………


 そしてなにより、俺の事を尊敬するように学習させている。


 さて前置きはこれくらいで始めるとしようか。この理想の妹の名前はもう決めてある。


心春こはる』だ。


 なぜか? って聞かれても俺がこの名前が可愛いと思い、そして好きな響きだからとしか答えられない。


 さて後はこの配線を繋げて、俺のパソコンにて学習させていたAIを心春に移せば俺の理想の妹誕生だ!!


 俺はエンターキーをパシッ!! と格好よく叩く。


 ジキルとハイドしかり、鉄腕アトムしかり、ロボットの起動と雷は切っても切れないものなのだろうか。

 バックミュージックにベートーヴェンの『運命』が流れていた気がする。ある種の狂気は何かを呼び寄せるものなのかもしれない。


 青く晴れ渡る空に突如黒い雲が流れてきて、激しい通り雨と共にいかずちを落とす。


 ドーーーーーーーン!!


 目を潰すような光が飛び込んできて、その少し後に大きな揺れが起きる。家の近くで落ちたんだ、なんて思いながら俺の視界が白く塗りつぶされ意識が消えていく。


 ……………………


 …………………


 ………………


 …………


 ……



 何が起きたか分からない。耳がキーンとしている。ゆっくりと目を開け天井を見る。大きな音と光に包まれたが、なんともなってないようだ。

 と言うかいつの間に俺はベットに寝ていたんだろう。

 心春は無事か? 体を起こし部屋を見ると、虎雄が倒れている。だらしない奴だ。


 それより我が愛しの妹、心春はどこだ?


 ベットから出るべく、体にかけられた毛布から出て手をつく。


 「?」


 手が短い……体を見るとネグリジェを着ている!? そして俺がよく知る拘りボディ。


「ふにゃ!! なんでしゅこれ!?」


 !!!!????


 なんだこの喋り方は!? 可愛い声に上手く回らない舌。まさかと思うがこの体は心春か? いやあり得ない、そんなバカなこと。


 と、とにかく落ち着いて状況整理だ。そして何が起きたかを考えるんだ。


「まずいでしゅ! えーと、えーと」


 あれ? なんか頭が回らない。いつもの天才的な考えが全く思い浮かばない。

 とにかく俺が心春と仮定して俺の肉体は無事なのか?

 

 慣れない体で必死にベットから立つと、部屋の隅で倒れている俺をすぐに見つけたのでヨロヨロしながら近付いて行く。


 自分を離れて見るという、鏡で見るのと違う変な感覚。息はしているし心臓も動いているから一先ず安心だ。


 それにしても間抜けな顔だ。ジーと見ていると俺がゆっくり目を開ける。


「ここは?」


 俺が喋る。え? なにこれ? ここにいる俺はなに? どういうこと?


 混乱する俺を俺が見て震える指を差す。


「私の体?」


 この台詞でピンっときた。こいつは俺だが俺じゃない。

 心春に搭載するはずのAIかもしれない! と言うことは『俺は心春』で『心春は俺』な訳だ。


「うしょでしょーーーーーー!」


 意味不明さが頂点に達した俺は、つい叫んでしまう。そんな俺の悲痛な叫び声が聞こえたのだろう。下の階にいた母さんが階段を上がってきて扉をノックしてくる。


「トラ? 大丈夫? さっき雷が近くで落ちたし、なんか変な声がするんだけど」


 ヤバイ、どうするこの状況。俺、幼女になりましたと説明するのか? 混乱して結論が出る前に扉がぶち破られる。

 鍵をかけてあった扉がくるくると飛んで壁に綺麗に突き刺さる。


 華麗な蹴りと共に現れた俺の母さん『嘉香よしか』は若かれし頃空手の全国大会で優勝したことのある人だ。

 現在43歳だが全く歳を感じさせない外見をしており美人だと近所でも評判だ。


 空手チャンピオンにとっては俺の部屋の鍵つき扉などティッシュ並みに薄い装甲に違いない。それを部屋の壁に突き刺さっているドアが物語っている。


 母さんは鋭い眼光で俺たちを睨む。

 ボケーーっとした顔の我が子とネグリジェ姿の幼女を交互に見た母さんが出した結論。


「トラ!! 遂に犯罪に手出しやがったかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 母さんの華麗な乱舞により俺がボコボコにされボロ雑巾のようになっていく。まずいこのままだと俺が死ぬ。


 身を呈して俺を庇う。


「だめ、お母しゃん。お、お……りぇ……おにいたん叩いちゃだめ!」


「俺」と言おうとして矛盾に気づいて、冷静に対処した結果、俺が言って欲しかった『おにいたん』を俺に向かって自分で言った瞬間だ。


 もう自分でもなに言ってるか分からないや。 

 

「お母しゃん? おにいたん?」


 母さんが怪訝な顔で俺を見てくる。


「お母さん、お兄ちゃんってこと?」


 俺は取り敢えず大きく頷く。ますます怪訝そうな顔になり、なにやらお考えのご様子。

 そして俺の両肩に優しく両手を置くと、目をキラキラさせて見つめてくる。

 正直、母さんからこんな顔で見られても嬉しくない。


「お名前は?」


「こ、こはりゅでしゅ」


 母さんがうんうんと大きく頷き、俺を抱き締めるとすぐに脇に抱え立ち上がる。


「ふえっ?」


 マヌケな声を出した俺を、抱えたまま階段を駆け降り始める。


「さあ~!! 心春ちゃんそんな格好じゃいけないわ。お着替えしましょう!!

 ああ~夢みたいこんな可愛い子が我が家に来るなんて!」


「うわわわわわっ!?」


 状況把握も何も出来ていないまま俺は、実の母に拉致られてしまうのだった。



 ────────────────────────────────


 毎週月・水・金に更新していく予定です。

 今後、更新頻度が増える可能性はありますが、しばらくはのんびりとした更新になりますので宜しくお願いします。


 次回 『心春は可愛いわけで』


 心春の着る服なんかも気にしていただけると嬉しいです。感想コメントなど頂けると励みになります。

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