白い紫陽花
梅雨の雨は柔らかくて好きだ。しとしとと降り続く雨の中、私は傘もささずに歩く。湿気の多い空気の中、髪や服が雨粒をここぞとばかりに吸い込んでいく。ふと横を見ると、紫陽花が咲き乱れているのが目に入った。
「白い紫陽花の花ことば、知ってる?」
彼女が無邪気に言う。
「知らない」
私は素っ気なく答える。
「白い紫陽花は寛容だって」
くしゃっと笑った彼女の幻は、そう言って消えた。
私は紫陽花に近づいて濡れた花びらにそっと触れる。
「あなたの全部を受け入れますって、そういう意味なんだって」
今度は姿は見えず、彼女の声だけが聞こえた。
私のこの気持ちが友情以上のものだと、彼女も気付いていただろう。それでも彼女は私のそばにいてくれた。きっと彼女は、私が手を伸ばせばその手を掴んでくれただろう。だけどそうしなかったのは私だ。
「風邪ひいちゃうよ」
後ろから声がした。振り向くと、そこには彼女が傘をさして立っていた。
「ここにいると思ったんだ」
私が何も言えずにいると、彼女は笑った。
「怖がることないよ。私が全部受け止めるから」
そう言って、彼女は私を抱きしめた。傘は道路に転がり、二人に雨が降り注ぐ。
ああ、あなたは私の白い紫陽花。私の全てを受け止めてくれるだろう。
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