39.「続続。天使少女と、愛の処方箋?」

  ◇



 ……と、ここまではギブリールの作戦も、目論見通り順調に進んでいたのだが。

 しかしそんな中、ギブリールは自分がを犯している事に、気づいていなかった。


 天使とは本来、神に仕え、人々を導く存在であるとされている。

 そしてそんな天使であるギブリールには、神さまの恩寵として、生まれつき"正しい道筋ザ・ライト・パス"を見抜く力が授けられていた。


 ――この薬を使えば、トーヤくんは二人ともっと仲良くなれるハズ……!


 結論から言えば、その『天使の直感』は確かに正しかった。

 しかし、問題はその先である。


 単刀直入に言おう。天界しか知らないギブリールは、地上の人間の性知識が極端に少なかったのだ。


 そんなギブリールが想像できていたのは……ただ純粋に、トーヤくんと二人が、好き同士『イチャイチャできるようになる』というところまで。


 しかし、に疎いギブリールは気づいていなかった。


 薬の力で『発情』した、少年一人と美少女二人。

 お互いが好きで好きで仕方がないその三人が、そんな『イチャイチャする』程度で済む訳が無いという事に――!



  ◇



 ……そしてその頃、カルネアデスの塔の頂上にある『女神ちゃんハウス』では。


 ギブリールと女神さまが二人で暮らしているその家の、とある一室。

 "天使少女"のギブリールの部屋である。


 そこではギブリールが、一人自室に籠って、女神さまに無断でトーヤくんと"チャンネル"を繋げていたのだった。


『――地上と"チャンネル"を繋げていいのは、太陽が出ている間だけですよ〜! ……えっ、何故って? ……もうっ、ギブちゃんったら♡ 向こうにだって、『プライベート』というものがあるんですからっ♡』


 ……というのが、"チャンネル"を使うに当たっての、女神さまの言いつけだった。


(……でも、『大事な用事がある時はいい』って、女神さまも言ってたし……。ボクがやってるのは、トーヤくんにとって凄く大事な事だから……! きっと、女神さまも許してくれるハズ……!)


 きっと、恋は盲目というのは、こういうことを言うのだろう。

 そうして地上のトーヤとのやり取りを続けていた、ギブリールだったのだが。


 ――ガチャリ。ノックをするでもなく、突然背後のドアが開けられる。


 ギブリールの体が、ビクリと反応する。


「むむむっ……!? 何だか宜しくない気配を感じたので、覗きに来てみた女神ちゃん登場っ♪ ……って、あれっ、ギブちゃん、その格好……」

「わわっ、女神さま!?」


 突然現れた女神さまに、ギブリールは驚きの声を上げる。


「ご、ごめんなさいっ、ボク、勝手に女神さまの服を着ちゃって……!」

「あらあら〜、別に良いんですよ〜! 可愛いギブちゃん♡」


 女神さまは、まるで微笑ましい物を見たかのようなニッコリ笑顔を見せる。


 ホッとするギブリール。しかし……やがて女神さまは、「あれっ?」と、『もう一つの事』に気付くのだった。




 

 …………。

 そして、しばらくして。


「つまり、このままだと……好き放題『えっち』をして、リゼちゃんとエレナさんのお腹が大きくなって……赤ちゃんが、出来ちゃう……?」

「うんうん、よく出来ました〜! そういうことになっちゃいますね〜♡」

 

 人間のについて、改めて女神さまからレクチャーを受けたギブリールは……顔を真っ赤にして、『これから起こるであろうこと』を口にする。


 ここに来てようやく、ギブリールは事態の重大さを理解したのだった。


 子供を産み育てるのは、確かに愛の形として、とても素晴らしいことだけど……トーヤとリゼの二人には、女神さまから授けられた『使命』があるのだ。

 

 『ラブアンドピース』とはよく言うが、平和ピースあってのラブなのである。


 つまり、どういう事かというと……今彼らに『ラブラブ子づくりえっち』をされてしまうと、世界はとても大変な事になってしまうのだ!


「どどど、どうしよう、女神さまっ! 大変な事になっちゃったっ!」


「うふふ……心配する必要はありませんよ、ギブちゃん♡ こういう時は、女神ちゃんに任せなさーい♪ 私に、いい考えがありますから♡」


 そう言って女神さまは気合を入れるように腕まくりすると、静かに"チャンネル"の前に立つのだった。



  ◇



 そして一方その頃、トーヤたちのいる地上では……。


 ――桃色の雰囲気が漂う、『花の都亭』の一室。

 早朝で薄暗いその室内で――顔を紅潮させ、興奮で息を弾ませながら、ベッドの上にベタリと腰を落とす、二人の美少女の姿があった。


「ふーっ、ふーっ……つまり私たちの体が、その……はっ、『発情』してしまっているのはっ……このっ、『元気が出る薬』が、原因な訳だなっ……!」

「そっ、そういうことに、なるわね……」


 ――赤みがかった茶髪に、整った中性的な顔立ち。そして何より、はだけた胸元から覗く、たわわな巨乳が魅惑的な"男装美少女"のエレナ。


 ――ピンクブロンドのショートヘアに、人形のように美しい顔。そして物静かなミステリアスな雰囲気の、スレンダーな"剣聖美少女"のリゼ。


 そしてそんな二人に挟まれながら、内心色々と覚悟を決めつつある僕がいた。


 ハッキリ言って、魅力的だとかそういう段階はとうに越えている。

 ――客観的にみて、大陸でも五人もいないであろう超絶美少女。

 甘い吐息。そしてシーツの擦れる音が静かな部屋に響いていた。



「それで……エレナは大丈夫? 凄く、顔が赤いけど……」

「そ、それはっ、そうだな……正直、このまま行くと……自分を抑え続けられる、自信はないっ……。それに、その……」


 リゼの問いに、エレナは口籠ると、チラリとトーヤの方を見る。

 そしてすぐに、恥ずかしそうに視線を逸らすのだった。


「っ〜〜! ……わ、私の事は、どうだっていいだろうっ……! そんなことよりっ、大事なのはっ、これからどうするかだっ……!」


 エレナは誤魔化すようにそう言いながらも、太ももをモジモジさせていた。

 思わずエレナの視線は、トーヤの体に引き寄せられる。


 男らしい、逞しい体……エレナは思わず見惚れてしまっていた。


(きっと目の前の少年にかかれば、自分の発情し切った体など、あっという間に組み伏せられてしまうだろうな……)


 何よりトーヤは、自分などよりも、ずっと『強い』のだから……。


 ――自分のような箱入り娘とは違って、裏社会で生き抜いてきた本物の実力者。


 実力的には圧倒的に格上であることを、エレナはこれまでの旅で、散々思い知らされて来た。


 ――自分より、強い雄……。


 そして視線を下げれば、そこには……大きいモノが服の下から主張している。


 ……ゴクリ。

 そしてその瞬間、エレナの頭に『桃色の妄想』が溢れ出すのだった。


『……上から押さえつけられているのに、勝手に興奮するなんて……悪い子だ』

『……やっぱりエレナは、真性のマゾなんですね。……この、変態』


 エレナの頭の中を駆け巡る、めくるめく妄想の数々……。


 ――だ、駄目だっ、こんなことを考えたら……!


「はぁ……はぁ……。とっ、とにかくっ、薬の効果が切れるまで、大人しくしていることにしよう……! それでいいなっ、二人ともっ!」


 エレナは顔を上げると、慌てたように声を張り上げて言ったのだが。

 ……いつの間にかリゼが、正面からトーヤに抱きついていたのだった。


「なななっ……! 言った側から、何をやってるんだっ、リゼっ!?」

「何って、トーヤくんに抱きついているだけだけど……んっ……♡」


 そう言ってリゼは腰を落とすと、華奢な体で、トーヤの体の上にのしかかる。

 トーヤ君をさせてあげたい……ただその一心で。


 ――私はトーヤ君のことが、好き。

 ――好きな人の側に居たい。それって、自然な考えでしょう?




「駄目だっ、ズルいじゃないか……そんなことされたら……我慢している自分が、バカみたいじゃないか……」


 そう言ってエレナは、切なそうな顔で、ゆっくりとトーヤの方に近づく。


「私はトーヤ、君が好きなんだ……! 我慢なんか、出来ないっ……!」


「トーヤ君、私の側にいてくれる?」

「私……トーヤ君と『家族』になりたい」


 ――そうして僕の体に、リゼとエレナ、二人の美少女がしがみつく。


 そして僕は、二人を激しく抱き寄せるのだった。

 ……僕だって、男だ。ここまで来て逃げるようなら、『男』じゃない。


 




 そして、その時――僕の目の前に、一筋の光が差し込んだのだった。


『――えー、ごほんっ。ここで女神ちゃんからの、業務連絡ですっ♪』

 

 ――め、女神さま!?

 神さまの突然の登場に、僕もリゼもエレナも、思わず顔を上げる。


 一体女神さまは、何の用事で……?

 そして女神さまは、まるで神託を下す時のように神々しい雰囲気を纏いながら、僕たちに向かって言い放つのだった。


『これからあなたたちが何をおっ始めようとしているのか……女神ちゃんは良ーく分かってます♡』


『『おめでた』とは神の祝福。つまり……私の指先一つで、どうにでもなるということです。例えば――幾らヤッても、子供が出来ないように、とか……ね♡ ふふっ、ギブちゃんに免じて、今日は特別ですよ〜?』


『それじゃあ……好きなだけヤれっ♪』


 そう言って女神さまはウィンクすると、光を発して姿を消したのだった。




 * * * * * *



「ねえ、トーヤ君。……幾らでも、シていいんだって」


「わ、私は……トーヤが私を求めるのなら……拒みは、しない」



 …………。


 それから僕たちがどうなったのかは、言うまでもない。


 敢えて言うなら、ニトラ学院長とのが凄く役に立ったとだけ言っておこう。

 

 そして僕たちは朝日が登るまで、ベッドの上で絆を紡ぎ合ったのだった……。

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