20.「とある『教団』の影。――そして暗殺者は、"赤い帽子"を見つける」

 ――フロリアの町が魔物で大騒ぎとなっていた最中さなか、とある路地裏にて……。


 人気ひとけのない裏路地には、ゴミ箱からはみ出たゴミの山がうず高く積まれていた。

 そんな中で、廃棄されたゴミがもぞもぞと動き始める。

 そして、一人の男がゴミ山から顔を出したのだった。


「ゴホッゴホッ、ここは……?」


 男は咳き込みながら、辺りを見回す。

 彼は昼間、人知れずトーヤに気絶させられた男の一人だった。

 懸賞金狙いで、様子を伺っていた所までは覚えていたが……


「……そうか気絶してたのか、俺は。でも、なんでゴミまみれなんだ……? ――って、うわああっ!!! ま、魔物っ……!?」


 路地裏での、突然の遭遇だった。

 男は不意打ちのように現れたゴブリンの攻撃を、命からがらで回避。

 危なかった……あと少し遅かったら、首から先は無くなっていた……!


「何なんだよ、コレはぁ!? なんでこんなところに魔物がいるんだよぉっ!」


 男はゴブリンから逃げようと、猛ダッシュで路地裏を出る。

 ――そして、気づくのだった。


 町に現れた魔物は一匹などではないことを。

 そして既に、魔物は町で暴れ回っていることを――。


 そして破壊の跡が色濃く残る、町の景色を目の当たりにして……男は思わず『経典』の一節を思い出していたのだった。

 いわゆる『終末思想』で、破滅願望のある若者を中心に人気の宗教である。

 巷で流行りのその"新興宗教"は、こう教えていた。


 ――飢饉や流行り病……そして貴方方に降り注ぐ不幸も全て、予兆なのです。

 ――まもなく『全ての終わり』が訪れます。『全ての終わり』には、善人も悪人も、等しく死に絶えます。全ての善行は無意味なのです。

 ――『正しくあれ』と、我々は貴方方を縛りません。むしろ、その逆……本能のままに生きることを許します。

 ――『秩序』に鉄槌を。貴方を救済できるのは、他ならぬ貴方自身なのですから……。

 

 そして、男は思った。


(――ま、まさか……これが『全ての終わり』ってヤツなのかぁ!?)


 そう、その『全ての終わり』が来たのだと、早とちりしてしまったのである。

 

「終わりだぁ! こんなところに居られるか! 早く逃げるぞおぉぉ!!」


 もはや居ても立っても居られなかった。懸賞金? そんなの、構うもんか! 

 男は周りにも目もくれず、なり振り構わず町から逃げる。


 しかし、彼は気づいていなかった。

 それは『全ての終わり』などではなく――町に現れた魔物の群れも、着々と討伐されていっているということを……。



  ◇



「とりあえず、この位でいいかな。後は衛兵あの人たちがやってくれるだろうし……」


 ……そして、一方その頃。

 フロリアの町の居住区では、一人の少年が夜の町を駆け抜けていたのだった。


 とりあえず、この近くの魔物は大体"削り"終えたハズ……。

 そして僕は剣先を拭うと、鞘に仕舞い、ホッと一息つく。


 ギブリールに『人探し』を頼んでいた僕だったけれども……見つかるまで、ただ指を咥えて待っている訳にもいかず。

 その間も『遊撃部隊』として魔物相手に大立ち回りを繰り広げていたのだった。


 ――けど、とにかく疲れた……

 元々僕は、リゼのように無双できる力なんて物は持ち合わせていないのだ。

 魔物を一体倒すだけでも、かなりの神経と体力を使わなければならない。


(けど……あの衛兵の動き……どうやら、レオはやってくれたみたいだ)


 僕の目から見ても、彼らの動きはとても統率の取れたものの様に見えた。

 優れた指揮官が居なければ、ああは動けないだろう。

 ふぅ……これで僕も安心して自由に動くことが出来るな。


 そして僕は、ユリティアさんの方へと意識を向ける。

 スィーファさんの頼みではあるのだけれど……僕にはどうしても、あの人があっさり魔物にやられるなんて思えなかった。

 むしろその逆……この魔物騒動に何か関わっているのではないかと疑っていた。


 もちろん根拠はない。だから、ただの疑惑の段階ではあるのだけれど……

 けど、警戒するに越したことはない。

 何しろ、あの人は得体が知れないからな……とにかく絶対に見つけて、何しに行ったのかだけは確かめないと。


『トーヤくん、何とか見つかったよ、こっち、こっち!』


 そして僕は声のする方に目を向けると、そこにはギブリールがぴょこぴょこしながら僕に向けて手を振っていたのだった。

 ――お手柄、ギブリール! 

 そして僕は、先導するギブリールの後ろについていくのだった……。



  ◇



 そして、僕がギブリールに連れてこられた先は――ある民家の屋上だった。

 おそらく家の住人は既に町の外に避難したのだろう。家の中には誰も居ない。

 僕は薄暗い家の階段を、ギブリールと共に登っていく。


 しかしそれにしても、こんなところに潜り込んでいたとはね……道理で中々見つからない訳だ。けど、それを見つけるギブリールも凄い……。


 と、そこで、僕に向けられた視線に気がつく。

 ギブリールが期待のまなざしで僕のことを見つめている。


 ――どうやらギブリールは、褒められたくてウズウズしているみたいだ……。


「よくここが見つけられたね、ギブリール。……ありがとう、助かったよ」

『……そっ、そうかなっ!? ……けど、別にボクは大した事はしてないし……だって、トーヤくんに言われた通りにしただけだから。ほら、トーヤくん言ってたでしょ、"あの人"は高い所が好きって……』

「そんなことないよ。ギブリールが居てくれたから、こんなに早く見つけられたんだ。……ありがとう、ギブリール」


 そう言って僕はギブリールの前に立つと、


『――ふえっ!?』


 とっておきの、感謝の気持ちを込めて。

 ギブリールは想定外の出来事に、初めビックリしていたが――やがて嬉しそうに、「えへへ……」と顔をほころばせるのだった。


「……さあ、行こう、ギブリール」


 そして僕は、目の前にある扉の前に立つ。

 ついにここまで来た。そして僕は、屋上に繋がるドアを開くのだった。



 ――人であれ、モノであれ。何かを探すのに、彼らの右に出る者はいない。


 そしてそこには、"赤い帽子の情報屋"がいたのだった……。

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