01.「王都、シドニス――『大英雄』と、王都の陰謀?」


 * * * * * *



 ――『この国で最も大きな建物』とは、一体何であろうか?

 もし仮に、シドアニア王国を訪れた異国の旅人に、こう訊ねられたとして……おそらく誰もが、こう答えるだろう。


 ――シドアニア王国王都、シドニス。

 その中央に鎮座する、シドアニア王城であると……。


 シドアニアに城は数あれど、その豪華絢爛さ、そして、そのには右に出る物はいない……。

 シドアニアの平和の象徴――それがこの『シドアニア王城』なのである。



  ◇



 ――巨大な王城が見下ろす、城下町。そこには美しい街並みが広がっていた。

 堅牢不落の城塞に囲まれているからであろう、歴史ある街並みが形を失うこともなく、今なおその姿を残している。


 そしてこの城下町の中には、広い広場がある。その名もズバリ『女神広場』。

 この広場を行き交う人々には、があった。


 ――右腕に刻まれた『聖痕』のあざ。

 彼らは皆、神様から異能を授けられた特別な存在――『勇者』なのである。



 ――シドアニア王国王都、シドニス。

 そこは勇者を志す者ならば誰しもが憧れる、『勇者の聖地』であった。


 初めて神様から異能を授かり、『始まりの勇者』と呼ばれるようになった"始祖ウィル"の生誕の地である、という歴史的背景もさることながら、"国家間の枠組みを超えた勇者互助組織"『勇者機関』のお膝元でもあり――

 そこには王国中、いや、大陸中から選りすぐりの"勇者"が集まり、日々競うようにしてダンジョンの攻略を目指しているのだった。


 ――王都の勇者にはその実績により、序列がつけられる。

 勇者の序列を記した『序列の書ナンバー・スクロール』、その"最初の一枚ページワン"に名前が刻まれること、それが勇者にとって最大の名誉であると言われていた。


 そして現役の勇者の中でただ一人、その最初の一枚ページワンに刻まれた勇者がいた。

 ――彼女の名前は、"カタリナ・ノーウェン"。

 、間違い無く現役最強だろうと言われていた……。



  ◇



 ……薄暗い室内に、三人の男が円卓を囲んで座っていた。


 ――そこは王都の外れに建つ、誰が持ち主かも知れない、古いお屋敷の中。

 三人はそれぞれであったが、『聞かれてはならない会話』をするため、わざわざこのお屋敷に集まったのである。


「……なぜこのタイミングで、剣聖が現れたのだ」

 

 三人の中の一人、禿頭の壮年の男が、忌々しげに呟く。それに同調するように、貴族ヒゲの小柄な男と、小太りの若い男が頷くのだった。


「だが、すでに計画は最終段階に突入しておる。計画通り進めるしかあるまい」

「我々の神輿にするには、この剣聖は不確定要素が多すぎる……」




「我々の計画に『英雄』は二人もいらぬ。……この『リゼ』という剣聖には、退場してもらわねばな」




 ……そして流れる、重苦しい空気。


 ――円卓の中央に置かれた、一枚の写真。

 そこには、一人の少女の姿が写し出されていた。写真の下には、走り書きのようにその名前が記されている。


 ――リゼ・トワイライト、と。


 彼らの計画は、『大英雄』とも呼ばれる当代最強の勇者、"カタリナ・ノーウェン"を錦の御旗として祭り上げることだった。

 しかしそのためには、突如彗星の如く現れた剣聖、『リゼ』には消えてもらわねばならない……そのための話し合いが、今まさに行われていたのである。


 この作戦が成功すれば、この国の勢力図は一変することだろう。

 長い下準備をしてきたのだ。

 ここまで来て、止まることなど許されない。

 

 最強の剣聖を消すならば、もはや手段は一つしか残されていない。

 ……最強の大英雄を、最強の剣聖にぶつけるのだ。



「しかし、あんな手紙で、あの『大英雄さま』は来るだろうか? 流石にバカにし過ぎでは……?」

「いや、来るだろ。バカだから」



「…………。そうか、それもそうだな」


 

 ――かくして、三人の長きに渡る話し合いは終了したのだった……。

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