27.「探検を終えて、夜の洋館で見つけたモノ。それは……」

 そして、しばらくして――。

 ギギギ……ときしむ扉を開くと、僕たちは館の最深部へと到着するのだった。


 そして僕たちは、部屋に足を踏み入れる。

 ――ようやく、ここまでやって来た……。

 ここが、最後の部屋……おそらく、かつては寝室として使われていたのだろう。……今は、見る影もないが。


 思えばここまでの道中、苦労の連続だった。そして苦労した割には、それらしい物は全然見つからずじまい。

 そんな中、一番大変だったのは、エレナだったろう。


「そうだ、暗いのが怖いなら、【雷撃】の異能で何とか出来ないかな?」

「それは……無理なんだっ。私の【雷撃】は、そう言った細かいコントロールが効かなくてっ……だから、無闇に使うと、この館ごと飛ばしてしまうかも知れない……」


 僕の問いに、エレナが残念そうに答える。

 そして結局、エレナは暗闇に怯えながら、洋館を進んでいたのだが。


 極度の怖がりなのにも関わらず、こんな薄気味悪い場所を連れ回され――

 ここに来るまでの道中、事あるごとに悲鳴を上げていたエレナも、今となっては虫の息で……すっかり叫び疲れたのか、ぐったりと虚な目をして、大人しくなってしまっていたのだった。


「……わ、私なら大丈夫、ダイジョウブ、ダダダっ、ダイジョウブっ……!」


 ――完全に、壊れかけである。

 無理矢理連れ回すような真似して、エレナには悪いことをしちゃったな……。

 しかしこれも、魔王の手がかりを探すために必要なことだから……。エレナには可愛そうだけど、最後まで付き合ってもらうことにする。


 しかし……残念だけど、どうやらこの部屋にも『魔王の遺物』はなさそうだ。

 魔王ほどの人物が、長年身近に置いていた物ならば……部屋に入った時点で、ほんの少しも禍々しいオーラに気づかないなんておかしい。


 結局、空振りだったか……僕がガックリと肩を落とそうとした、その時。

 リゼが部屋の奥で、何やら見つけたのだった。


「これ……本?」


 リゼはそれ・・を拾い上げると、ボソリと呟く。

 確かにリゼの手には、一冊の本が握られていたのだった。



  ◇



 そして僕たちは、洋館を脱出すると、キャンプにまで戻って来たのだった。

 戦利品の一冊の本を片手に、テントの中へ戻って来る。

 ここまで戻って来て、ようやくレオはホッと一息ついた様子だった。


「ふっ、ふふっ……これで、ようやく安心だなっ……! こんなこじんまりしたテントが、こうも落ち着くとは……ここに来るまで、思いもしなかったぞ……」


 そう言って、レオはテントの床にへたり込むのだった。

 一方のリゼはと言えば、洋館で手にした本をパラパラとめくっている。


「……それで、この本の事だけど」


 こうなって来ると気になるのは、本の中身である。

 リゼが本を開くと、僕たちはテントの中央に座り、三人で回し読みを始める。


「魔王の遺物……には見えないけど」

「古い手記、みたいですね」

「ふむふむ、なるほど……。どうやら過去の調査隊が遺した物のようだぞ」


 "魔道ランタン"で照らされた、明るいテントの中で、一冊の本を囲みながら僕たち三人は口々に呟く。

 どうやらそれは、百年前の調査隊の隊長が残した手記のようだった。


 手記の著者は、『⬛︎⬛︎ルグ・デライト』。(⬛︎部分はかすれが酷く、解読不能だった。おそらく、『ゲオルグ』か)。

 彼は魔の森イービルウッズ攻略の第十二期遠征組、第二陣の隊長を務めていたらしい。

 彼らの仕事は、魔の森の外に仮設拠点を設営し、先行して突入した第一陣に補給ラインを繋ぐことだった。


 しかし、しばらくして、第一陣が消息を絶つ。

 彼らの捜索を目的に魔の森へ足を踏み入れた彼らだったが……恐るべき魔の森の生態に、彼らは徐々に消耗していくのだった。

 そして、『恐るべき敵』(おそらく、文脈的に異常個体ミュータントのことだろう)に壊滅的な被害を被ると、第一陣の姿を見ることなく、敗走。そして、辛くも最寄りのオアシスへと逃げ込むのだった……。


 そして――彼らは逃げ込んだ先の洋館で、一人の執事と出会う。

 その年老いた老紳士は、『セバス』と名乗ったのだった。

 洋館で怪我の療養をし、第一陣の捜索に備えるゲオルグたちだったのだが……。


 一日、一日と消えていく仲間たち。疑心暗鬼となる部隊の面々。

 そして最後の一人となった隊長は、セバスと対決に臨むことを決意する……と、ここで手記は途切れている。


 ――この後の展開は、想像に難くない。

 部下の仇を討つべく、セバスに戦いを挑んだゲオルグだったが……おそらくゲオルグはセバスに敗北し、捕食されたのだろう。


 なるほど、これは例の魔物、セバスの犠牲者が残した手記だったのか……。

 これはこれで、当時の騎士団の様相を知る貴重な史料ではあるものの……僕たちが求めているものではないのだった。

 やはり、魔王の遺物じゃなかったか……予想はしていた事だとはいえ、やっぱりガックリ来てしまうのも事実。


「はぁ……やはり、か……あれだけ苦労してこれだと、来るものがあるな……とりあえずこれは、王都に提出するべきだろう。無事にたどり着けたら、だが」


 ドッと疲れたようにレオはため息をつくと、ぐったりと後ろに倒れる。

 ……そろそろ、床についてもいい時間かも知れない。


「んっ……ふわぁ……」


 リゼも眠くなって来たのか、可愛らしい欠伸をしている。


 しかし、その前に……僕は外の空気を吸いに出ることにしたのだった。



  ◇



 そして僕はテントの外に出ると、キャンプの周りを散策するのだった。

 ウロウロ、ウロウロと、僕は周囲にアンテナを張りながら、気配を消して歩く。

 これもきっと、職業柄、なのだろう。外で野宿をするときは、どうしても周囲の安全をキッチリと確認したくなってしまうのだ。


 ――暗殺者の日常は、常に殺し合いだ。狡猾な獣のように生き残らなければならない。……暗殺者の先輩から、口を酸っぱくして教えられたことだ。

 ……そのおかげで、僕は何とか今まで生き延びられている。


 外の夜風はひんやりと冷たい。そして、美しい月夜だった。

 このオアシスの中に、僕たち以外の存在は、微塵も感じられない。

 だが、用心しなくては……僕たちは、命を狙われている身なのだから。


 そして――僕は、キャンプへ戻って来たのだが。

 スィーファさんとユリティアさんが、何やら会話をしていたのだった。


「…………」

「…………」


 距離が遠く、ここからだと会話は聞き取れない。

 そして……どうやら会話は終わったようだ。

 そしてユリティアさんはペコリとお辞儀すると、テントへと戻って行く。


 ――何を話してたんだろうか。少し、気になるな……。

 そして僕は、スィーファさんに声を掛けるのだった。

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