12.「一方その頃。華やかなパーティの裏で……」

【前書き】

ふたたびの外見設定。


□ガルム・フォーセシア

……威勢のいい、金髪ロングの褐色ヤンキー少女。

小麦色の肌に、鍛えられた筋肉質な肉体の、『筋肉娘』。

女豹のようにしなやかな身のこなしで、異能【獣人ビースト】によってブーストされた身体能力を駆使して魔物を狩る〈前衛型インファイター〉。


気になる相手には、つい厳しく当たってしまう。

ガサツな所もあるが、本当は素直になれない乙女な女の子。





 * * * * * *




 そして時は遡り、薄ぼんやりした空の下、小鳥たちがさえずる今日の朝方。

 ウェイン班の部隊室ルームにて――


 部室棟の2F、それぞれの班に用意された『部隊室ルーム』が立ち並ぶフロアの中の一室――ウェイン班の部隊室ルームには、班のリーダーであるウェインを除いたメンバー、ガルム、レヴィ、ミーシャの三人が揃っていた。


 つい一昨日おととい、初期メンバーの一人であるトーヤをクビにしたウェイン班であったが、今日は、新メンバーの候補として目を付けていた生徒と交渉する予定だった。


 一旦部隊室に集合し、新メンバー候補たちのデータと、本日の段取りを確認する――という手筈だったのだが、現在は集合時刻を少し過ぎ、リーダーであるウェインを待っている、といった状況だった。


 あの真面目なウェインが集合時間に遅れるなんて、珍しい。

 三人はそれぞれ手持ち無沙汰な様子で、各々の方法で時間をつぶすのだった。


 ミーシャは、窓際の椅子に腰かけて、静かに読書をしている。

 レヴィは、持ち込んだお菓子を食べながら、ダラダラと過ごしている。

 そして、ガルムは――浮かない顔で、一人考え事をしていた。


 壁に寄りかかった姿勢で、ガルムは考え込む。トーヤを追い出してからというもの、ガルムの心の中では、ずっとモヤモヤした感情が渦巻いていた。


(チッ、どうもモヤモヤしやがる……! だが、他に方法なんて無かったはずだ。俺たちの選択は、間違っちゃいないはず……!)


 自分の背中を預けた"仲間"だ。他にやりようはなかったのかと、考えてしまう。

 しかし――この学院を支配する、競争原理。それは、絶対だった。


 ――ライバルは蹴落とせ。蹴落とさなければ、自分が蹴落とされる。

 ――役立たずは見捨てろ。自分たちが足元を掬われる前に。


 確かに、奴の努力は認める。誰よりもあいつは努力をしていた。けどな……

 今の仲良しグループのままじゃ、この先、生き残れねぇ……。

 

 と、その時。浮かない様子のガルムを見た、レヴィが声を掛ける。


「どうしたの、ガルム先輩? また考え込んだりなんかして。……もしかして、トーヤ先輩のことを考えてるんじゃ――」

「ンなわけねーだろーがっ! 誰があんな負け犬のことなんか……余計なことを言ってると、しまいにゃ吊るすぞ、レヴィ!」


 ニヤニヤした様子のレヴィに、図星を突かれたガルムは大声で威嚇する。

 しかしレヴィは、「ガルム先輩怖ーい」と、まるで怖がる様子を見せない。

 そして「チッ、相変わらずムカつくヤローめ」とガルムは呟くのだった。


 しかし、レヴィに怒鳴った所で、頭のモヤモヤは晴れることはなかった。

 それどころか、レヴィに指摘されたおかげで、余計に意識してしまう始末。


 ……ったく、さっきから、アイツトーヤのことが頭から離れやがらねぇ。

 何だよ、これじゃあ俺が、トーヤのことを心配してるみたいじゃねーかっ……!

 アイツは俺が追い出したようなもんなのによっ……!


 クソっ、こんなはずじゃなかったんだ。

 俺たちはただ、皆んなでこの学院で成り上がりたかっただけなのに……!


 班として成果を残せば残すほど、のしかかる重圧。

 否応なく周りから寄せられる期待に、何とか応えるために努力を続け、限界ギリギリだった。


 ――本当は、皆んなで楽しくやれれば、それで良かったのに……。


 そうやってガルムが、彼女らしくない落ち込みを見せていた、ちょうどその時――ウェインが部隊室に駆け込んできたのだった。


 何やら慌てた様子のウェインに対し、ガルムは不審げな視線を向ける。


「遅かったじゃねーか、ウェイン! ……で、どうしたんだ、そんなに慌てて。今日は新入りとの顔見せの日だろ? お前らしくもねぇ」

「ハァ、ハァ……それどころじゃないんだ、聞いてくれ! あのカルネアデスの塔に踏破者が現れたんだ!」


 息を切らせながらウェインが放った言葉に、一同は騒然とする。


「……マジか。その話、本当なんだろうなっ」

「ああ。……でも、この話はそれだけじゃないんだ。その踏破者の一人が……いいか、よく聞けよ? あのトーヤなんだよ!」

「……はあ!?」


 ガルムは素っ頓狂な声を上げる。

 そして「……おい、何かの冗談だろ?」と、ウェインに向かって問い詰める。

 しかし、ウェインは真剣な顔で、黙って首を振るのだった。


「おい、マジか……マジかよっ」


 あまりの出来事に、しばし茫然とするガルム。他のメンバーも同様だった。

 しばらくして、ウェインは三人に、日程の変更を伝える。

 今日は全校休校が決まったこと。そして夕方から、カルネアデスの塔の踏破を記念して、パーティが開かれるということを。

 新メンバー候補との顔見せも、こんな日に出来るわけがなく、延期となった。



 そして、十時間後――

 ウェイン班の四人は、会場であるカルネアデス会館の大ホールにいたのだった。


 大ホールには沢山の丸テーブルが立ち並び、その上に沢山の料理が並んでいる。

 そして垂れ幕には、『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』の文字。

 特別に飾り付けられたパーティ会場には、沢山の生徒たちが集まっていた。


「すごい人……それに、美味しそうな料理もいっぱい……!」


 そう言ってレヴィは、目をキラキラと輝かせている。

 一方でガルムは、広い会場の中で、トーヤの姿を目で探していた。

 そしてガルムは、トーヤを会場の真ん中に見つける。


「やっぱり、マジだったんだな……」

 

 何かの間違いだろうと、半信半疑でこのパーティを訪れたガルムだったが……実際にこの目で見てしまうと、現実の出来事であると疑いの余地はなかった。


 ――嗚呼、あいつは、あのカルネアデスの塔を踏破したんだ。


 そのことを、ようやくガルムは実感する。

 学院の教師たちから少し離れた場所に、立っているトーヤの姿が見える。

 そしてその隣には、見覚えの無い少女の姿があった。


(そうか、あいつが、新しいトーヤの仲間ってことか……)


 そう思うと、言いようのない感情が込み上がってくる。

 それと同時に、自分の力の無さを痛感するのだった。


 ――あいつは、ちゃんと壁役タンクとしての仕事を全うしていたんだ。

 ――もし自分達に、甲鉄虫アイアンワームの装甲を貫く力さえあれば……。 


 思わずガルムは、右こぶしに力が入っていた。


(……チッ、俺らしくもねぇ。あいつは、新しい仲間と一緒に成功したんだろ? だったら、俺らの方がだったってことだろうがっ……!)


 そしてガルムは、悔しくて、奥歯を噛みしめる。

 ああ、そうだ。あいつをクビにしたのだって――ただ、自分たちの無力さから目を背けたいだけだったということに、気付いてしまったから。


「……えー、みんなボクの名前は知ってるだろうから、自己紹介は省かせてもらうよ。『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』へようこそ。とりあえず今夜は無礼講なので、好きなだけ食べて楽しんで行ってくださいネ。……ま、こんな感じでいいかな。んじゃ、適当に始めちゃって」


 そして、グエル教頭の挨拶もそこそこに、パーティが始まった。

 トーヤと少女の二人は、教師たちに囲まれて、賞賛の言葉を浴びている。


 そして、ウェイン班の四人は、そんなトーヤの姿を遠巻きに眺めることしか出来なかったのだった……。

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