10.「褐色ロリダークエルフ学院長は、パーティを開きたいようです」

 レオが、王都に同行する――。


 ニトラ学院長が放ったその言葉に、僕は驚きを隠せなかった。


 けれど確かに……レオが一緒なら、心強いことこの上ないというのも事実だ。

 なにしろレオは、エピック級の異能、【雷撃ライトニング】の持ち主。その上、名門"アークフォルテ家"の御曹司という身分でもある。王都での伝手も見込めるだろう。


 ……けど、本当にいいのだろうか?

 レオにだって、都合があるわけで……そもそも、僕たちと王都へ向かうということは、学院を離れるということで。その間、勉強も異能の訓練も中断しなければならないというのは、かなり無茶なお願いなんじゃないだろうか。


 レオにそんなことをする義理なんて、ないだろうし。

 ただ、一つだけ気がかりなのは、ニトラ学院長が言っていたあの言葉。


『それに、お主には、二人を導く"義務・・"がある。それは、お主も忘れたわけではあるまい……』


 レオが、ニトラ学院長の弟子だということは分かる。

 けど、って、一体……?


 しかし、ニトラ学院長がそのことに触れることはなく。

 いかにも一仕事終えたといった様子で一息つくと――何やら続けてウキウキな様子で切り出すのだった。


「さてと。そうと決まれば、後はやることは一つ……宴会パーティじゃ!」

「……いやいや、何故そうなるっ! それに私は、王都に行くなんて認めてないからなっ!」


 レオが勢いよくツッコむ。

 しかしそんなレオに対して、ニトラ学院長はケロリとした表情で言うのだった。


「折角あのカルネアデスの塔を踏破したというのに、何の祝いもなしというのは、ちと寂しいではないか」

「本当はそれを口実に、師匠がどんちゃん騒ぎがしたいだけだろう……」


 レオがジト目で、呆れたようにボソリと呟く。

 しかしニトラ学院長本人は、全く悪びれる様子を見せない。それどころか、レオに向かってこう言い放つのだった。


「あとお主は勘違いしているようじゃが、レオ坊、お主に選択権などないぞ? ……お主のにも根回し済みじゃし、休学届けも既に受理しておるからのう♡」


 そう言ってニトラ学院長は、一枚の紙をレオの前でひらひらさせる。

 それは紛れもなく、レオの休学届けだった。

 そして――よく見ると、なんとその休学届は、申請したのも、受理したのも――ジル・ニトラ学院長、その人だったのである。なんという暴君……! 

 さすがにレオが、かわいそうになってきた……。


「くっ……!」

「これで分かったじゃろう? お主には選択権などないと。……クックック、いい加減、観念するがよい」


 そう言って、邪悪な笑みを浮かべるニトラ学院長。

 流石のレオも、「っ、そこまでするか……!?」と、どうやら心が折れた様子。

 そしてニトラ学院長は、高らかに宣言するのだった。


「さてと、白黒はっきりつけたところで――学院長の名において宣言する、今日は全校休校じゃ! ……さあ、盛大にパーティと洒落込もうではないか!」



  ◇



 そして急きょ開催が決定した、『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』。


 今日一日、全ての授業が休講となり、生徒たちが両手を上げて喝采する一方で――学院の職員たちは、突如決まったパーティの準備に追われ、悲鳴を上げて学院の中を慌ただしく駆け回るのだった。


 会場となるカルネアデス会館の大ホールには、着々と飾り付けが施されていく。

 また第二、第三会場として、学院の大食堂や中央校舎も準備が行われていた。


 そして学院に、夕刻の鐘が鳴り響く頃――。


 全ての準備が終わり、パーティ開始の幕が切って落とされようとしていた……。



  ◇



 パーティ会場であるカルネアデス会館の大ホール、広々とした円形の大広間に、学院の生徒たちが集まっていた。


 目の前には沢山の丸テーブルが立ち並び、その上に並ぶのは、極上の料理たち。

 普段なら競争率の高い食堂の料理が、今日は好きなだけ食べれるということで、生徒たちは皆、興奮の表情を浮かべていた。


 パーティが始まるまで、料理に手を付けてはならないのがルールだ。

 生徒たちは各々、パーティの開始の合図を待ちながら、周りの学友とお喋りをしたりして暇をつぶしている。


 しかし時折、獲物を狙う猛獣のように目を光らせて、料理を見つめるのだ。

 パーティの開始の合図を、今か今かと待ちながら……。 



 所変わって、教職員たちが集まる大ホールの中央では――。


 何やら教員たちが集まって、パーティの段取りについて話し合っていた。

 その様子を僕とリゼは、少し離れた場所で眺めていたのだった。


 いや、確かにパーティを開くとは言っていたけど……ここまで大がかりなパーティだったとは、さすがの僕も予想していなかった……。

 一応パーティの主役ということで、会場の中央に連れてこられた訳だけど。

 ただ連れてこられただけで、何の話も僕たちには来てはいなかった。


 どうしよう、急にスピーチとか振られたら。何も話せることなんてないぞ。

 参ったな……そうだ! レオならきっと、こういう場面でも場慣れしてるだろうし――今のうちに、レオに相談しに行こうか。


 なんてことを、僕は考えていたのだが。


「え? こういうのは、一番偉い人がやるもんじゃないの? 学院長がいない? ハァ、またですか……えー、柄じゃないんだけどなァ……んじゃ、面倒だし、手短に行きますか」


 そう言ってポリポリと頭を掻くと、気だるげに前に出るグエル教頭。

 どうやらようやくパーティが始まるらしい。グエル教頭の挨拶が始まる。


「……えー、みんなボクの名前は知ってるだろうから、自己紹介は省かせてもらうよ。『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』へようこそ。とりあえず今夜は無礼講なので、好きなだけ食べて楽しんで行ってくださいネ。……ま、こんな感じでいいかな。んじゃ、適当に始めちゃって」


 相変わらず、いつも通りの気だるげな態度で、グエル教頭が挨拶を済ませる。

 そして――堰を切ったように、料理へと群がる学院の生徒たち。


 ――こうして『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』は幕を開けたのだった。

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