第五章 後ろの正面だあれ?
第二十一話 事故物件・事故人間
「ちょっと怖い話、してもいいですか?」
伊織がシェアハウスのメンバー全員を集めたのは、夏の日の夜だった。飛鳥の部屋での騒動以降、ポルターガイストは発生回数が増えている。各自の個室は伊織が守りを固めたためか、共用部分で被害が多く出ていたのだ。玄関、洗面所、トイレ、風呂場。文貴がそれまで全く関知していなかったものたちが、あふれ出てきていた。
メンバーから異論は出ない。
「――話の予想はついていると思います。この家で発生している心霊現象のことです」
食卓にはクーラーの風が届いている。それでも肌にまとわりつくいやな暑さがこもっていた。
「これだけ心霊現象が起きる原因を私も探っていました。家に何かある。そんな仮説を立てて調査した結果わかったことは、家は直接の原因ではないということです」
迷いなく言い切る伊織に、真っ先に飛鳥が反応した。
「そんなっ、じゃああたしの部屋のことはなんだったの?手品でもないでしょう?家じゃなかったらなんだっていうの」
「そうですよ。伊織さん、ここに住み始めた頃に言ってたじゃないですか。この家は霊的なものの通り道に建ってるって」
無表情に徹している伊織は、深呼吸した。
「文くんに昔言ったことは、間違いではありません。この家は霊的なものの通り道にあり、寄り道されやすい場所といえます。しかし家が悪さをしているのではありません。例えていうなら、この家はセキュリティが脆弱なコンピューターのようなものです。コンピューターウイルスに感染したら、悪さをするのはウイルスで、コンピューターという土壌じゃないでしょう?」
なるほど、伊織の例えについては分かった。心霊現象は現象に過ぎず、大元の原因ではないから祓っても祓っても解決しないと。
「それではこの家は元からウイルスに……なにかの幽霊が住み着いているから心霊現象が起きるということですか?」
真弓の質問に、伊織は首を振る。
「その可能性も考えましたが、ありえないんです。まず私はここに越してきたときに、許可を得て家じゅう隅々まで調べました。地縛霊などがいる痕跡はありませんでした」
「じゃあなんだっていうんですか」
文貴の問いに、伊織は息を吸う。
「先ほどのコンピューターの例えでいうと、家はコンピューター、幽霊がウイルス、心霊現象がウイルスが引き起こす行為です。では住人はなにに例えられるか。――USBメモリだと思ってください。1人につき一本です。今はこの家に5本のメモリが差さっています」
嫌な汗が背中から噴き出す。情報の基礎的な授業の進行そのものだが、穏やかでない。
「1本のUSBメモリにウイルスがついていたら、コンピューターはどうなりますか」
「え?感染しておかしなことになる――あっ」
飛鳥は伊織の言わんとすることを理解したようだ。
霊能力者は家主に向き直る。
「雪野さん、あなた、幽霊に取りつかれるようなことを、したことがあるんじゃないですか」
4人分、8つの瞳が一人に向けられる。
「この家の心霊現象は、雪野さんにとりついている幽霊が原因です」
雪野は黙って微笑んでいた。
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