第760話 立っている

それほど大きくない公園がある


公園の真ん中に水飲み場があり、あとはベンチといくつかの遊具がある程度だ


それでも、休日になれば数人程度必ずいるくらいには人けはある


その公園は真四角に近い形をしていて、大きな道路に面する場所の角にポールが1本立っている


高さは150cmほど。目印なのか、なんなのか分からないが最初からあった


ある日、終電で駅まで帰ってきて、そこからタクシーで帰って来た時の事


タクシーの運転手に自宅までの道を案内していた


「この道をまっすぐ行って、しばらくすると公園が見えてきます。角にポールがある公園です」


「分かりました、ポールのある公園ですね」


「ええ。そこを過ぎて200メートルほど進んだら停めてください」


「はい」


もうすぐ家に着く、その気のゆるみから少しうとうととしていた


「すみません」


「はい?」


運転手に声をかけられて目を覚ます。着いたのだろうか


「ポールのある公園が見当たらないのですが。公園はあったのですが、ポールが無くてですね……」


こいつ、見落としやがったな。そう思った。だが、ここで口論してもメーターがあがるだけで、得は無い事を経験から分かっていた


「あー、通り過ぎたみたいですね。戻ってもらえますか?」


「すみません」


戻った場合、家の方が先に着くのだが、この運転手に嫌味としてポールがあることを見せるために公園で降ろしてもらう事にした


「あ、あの公園です」


「さっき通り過ぎましたが、ポールが無かったと思うんですが……」


運転手はまだ自己弁護を続けていた。だが、現実を見せれば納得するしか無いだろう。納得したなら、値引きなりなんなりしてもらおうか、そう思ってポールを指さそうとする


「あ……れ?」


タクシーは、その公園を通り過ぎた。俺も、そのまま何も言えずにしばらく呆然としていた


「あれ、何ですか? さっき気が付かなかったんですけど、人ですかね?」


「あ、ああ……」


ポールのある場所に人が立っていた。いや、運転手は運転していて良く見えなかったみたいだが


あれは見るからに腐った死体だった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る