第759話 見えないのに
中学生の頃、私はクラスのカッコイイ男の子に恋をしていた
ある日の夜、机に向かってラブレターを書いていた。渡すかどうかは、明日の私に任せる
何を書けばいいのか。とりあえず、なぜ好きになったのかと、出来れば付き合いたいと書いておく
どこかに呼び出して告白するのが普通なのだろうけど、私にそんな度胸は無い
当然、手渡しなんて無理。だからこっそりと下駄箱に居れるつもりだ……明日の私が
幸い、下駄箱は外から見えないタイプのやつだ。あ、朝に入れるとその日の間ずっと緊張で死にそうになるから、帰り頃に入れよう……明日の私が
ラブレターが完成した。とりあえず、自分のカバンへ入れようと立ち上がり、カバンのあるベッド横の棚へと向かう
「きゃっ!」
何かにぶつかった。目の前には当然、何も無い。ぶつかったあたりに手を伸ばす
「何かある……」
そこには、見えない何かが確かにあった。透明な何かではない。透明なだけなら、たとえばマジックなんかで塗れば見えるようになるけれど、私の手以外が触れることはできなかった
「変なの」
私はそれに左手で触れながら、右手に持ったゴムボールを投げると、ゴムボールは何も無いかの様にとおりすぎる。実際に何も無いんだけれど、私にだけ触れる何かが確かにあった
「そうだ、輪郭だけでもなぞってみれば形がわかるかも」
温度は感じない。紙粘土の様な手ごたえ。曲線が多く……
「人……?」
肩だと思われる場所に触れて、そう思った。そして、首、さらに上には顔らしきものが
触れても顔の形は分からない。だけど、女の子の様な気がした
「お風呂に入りなさーい」
「はーい」
母親に風呂に呼ばれ、風呂に入る。風呂から上がってもう一度同じ場所を触ったけれど、もうすでに何も無かった
「なんだったんだろ」
怖いというよりも不思議な感じ
「えっ、私のラブレターが無い」
結局、しまうことなく棚の上に置いたはずのラブレターが消えていた
「もういいや」
もう一度書く気力がわかなくて、そのまま寝る事にした
次の日、ラブレターを渡すはずだった男の子から話しかけられた
「俺も、お前の事好きだよ」
「えっ。本当に?」
ラブレターを渡していないのに、返事が来た。あとで聞いたら、朝、下駄箱に入っていたみたい
昨日のあれ、もしかしたら「明日の私」……だったのかな?
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