第744話 目の中に見える
電池の交換を終え、光の強い懐中電灯を誤って自分の目に向けてスイッチを押してしまった
しばらく目の前が真っ白になった
目が慣れ、元に戻った……はずだった
左目を閉じると、白色と黒色の何かが見える
両目をぎゅっとつぶると、それは白い服を着て座っている髪の長い女性だと感じた
「見えた」ではなく「感じた」というのは、顔が完全に見えず、体の起伏の見えない服を着ているけれど、女性だと……そう思わされたのだ
もう一度ぎゅっと目を閉じると、その女性が少しこちらを向いた気がする
瞬きをするたびに、少しずつこちらに顔を向けている
半分ほど顔が見えた時、その女性はすごくやせ細った老婆に見えた
ほほがこけ、目がギョロっと飛び出ている感じだ
見たくないけれど、目をつぶると見えてしまう。だからと言って、目をつぶらないことは不可能だった
老婆が完全にこちらを向いたとき、自分の意識が遠くなった
気が付くと、学校の中に居た
いや、自分はすでに社会人だ。そう自覚している自分と、今日の授業は確か数学だったなという意識が存在し、一体どちらなのか分からなくなる
数学という事は、高校生のはずだが、クラスメイトには会社の同僚と小学校の同級生も混じっていて、なお訳が分からない
そろそろ先生が入ってくると思い、席に座ってドアの方を見る
しかし、入ってきたのはあの老婆だった
老婆は、そのまま私の目の前に来た。その顔は、やはりやせ細っていて目がギョロっとしている
「目を覚ませ」
老婆は言う
「目を覚ませ」
老婆は言う
「目を覚ませ」
「うるさい!」
そう叫んで目を覚ますと、目の前には誰も居なかった
いつの間にか朝になっていた
もう、目をつぶってもあの老婆を見ることは無かった
しかし、今思い出しても鳥肌が立つのはなぜだろうか
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