第696話 温水プールで

冬に温水プールへ行った


激しい運動はきついが、プールならばまだマシに運動できると思った結果、温水プールへ行ったのだ


まあ、夏場と違って温水プールへ来るのはほとんど年寄りか、泳ぎを習い事にしている小学生くらいで、若い女性は見当たらなかった


それが目的ではなかったが、全くいないというのもがっかりだ


とりあえず、歩くことから始める。最後に泳いだのは何年前だっただろうか。もしかしたら十年くらい泳いでいないかもしれない


初歩の初歩、顔を水面につけてみることにした。ゆっくりと耳まで潜り、水面から顔をあげる


「ま、これは出来てあたりまえか」


次は、顔をつけたまま目を開ける事にした。視力が悪くなっているが、水中ではどうだろうか? そう思ってゆっくりと目を開ける


すると、プールの底からこちらを見上げる女性が目に入った。その顔は、真っ青で魚のように目がまるくて大きく、ゆらゆらと揺れる髪は海藻のようだ


(え?)


よく考えたら、このプールは俺でも足がつくくらいの深さしかないのに、その女性は真上を見ている。つまり――体が無い


俺は慌てて顔をあげ、プールから上がろうとした


その瞬間、強い力で足を掴まれ、水中に引き込まれた。体感では、プールの底よりもまだ深く引っ張られたようなきがする


(やばい、息が続かない……こんなところで死ぬのか)


特に未練は無かったが、運動しようと思ってきただけのプールで死ぬことになるとは思わなかった

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