第686話 ベビーカー
これは、街を歩いていた時の事です
スクランブル交差点で、今日も沢山の人が歩道の上を歩いています
その中に、ふと目に留まる人が居ました。夏も近いというのに、長袖長ズボン。頭には灰色のフードをかぶっているので顔は見えないけれど、ベビーカーを押しているのでおそらく母親だろう
フードからは、茶色に近い長い髪が出ているので女性だと判断した
そして、その人を避けるようにベビーカーから2mほど誰も近寄っていない。目に留まったのは、隣の人ともぶつかりそうな人の多さなのに、そこだけぽっかりと空間があったからだろうか
そのうえ、誰もそのことに気が付いていないみたいで、各々スマホに目を向けている
そんな中、そのベビーカーに向かっていくように見える男の姿があった。見た目で判断するならば、おそらくヤクザかチンピラか。派手な半そでに、派手にアクセサリーをつけてグラサンをかけている
その男は、電話しながら歩いているが、声が聞こえた範囲の人が道をあけて(避けて?)いる
そのまま男は進み、ベビーカーを押す母親の前に来ると叫んだ
「じゃまじゃボケェ!」
自分が避ければいいのに……なんて言う人も居なく、周りは見て見ぬふりをする。母親は動けないのか、避ける様子はない。それに腹を立てたのか、男はベビーカーを軽く蹴ってさらに叫ぶ
「じゃまじゃというとんのじゃ!」
それでも動かない母親。すると、男はベビーカーを蹴り倒した。それにはさすがに周りから非難の声が出るが、男と目が合うとさすがに怖いのか立ち去っていく
ベビーカーの赤ん坊は大丈夫なのかと目を向けると、ベビーカーは空だったらしく何も落ちていない
赤ん坊が怪我をしなくてホッとした周りの人たちも、これ以上関わりたくないと足早に去っていく
さすがに蹴り倒す気までなかったのか、男もそれ以上何も言わずに歩いて行った
しかし、この話はそれで終わらなかった。フードを被った女性は、その男の後をついていったのだ。明らかに目的地とは正反対なのだと思うが、それについても何かを言う人は居なかった
俺は少し気になってその二人をつけてみることにした。誰と電話をしているのか、ずっと電話を続ける男と、その後ろを静かについていく女性
今思うと、ベビーカーを動かす音が全くしなかったと思う。実際、すぐ後ろにいる女性に男は全く気が付かない様子だ
男はそのままアパートの一つに入り、階段をのぼる。女性も、なんとベビーカーをたたみ階段をのぼり追いかける。俺はさすがにそこまで追いかけるつもりはなく、そのまま立ち去ろうと思った
「うわあぁ! ぐあっ!」
数歩歩いたところで、アパートから男の叫び声が聞こえた。何事かと振り向くと、2階へ向かう階段の踊り場に男が倒れていた。階段から落ちたのか? 体を打ったらしく、しばらく悶えていたようだが……まさか、さっきの女性が突き落とした?
そんな事をしたら、どんな報復をされるか……それを考えただけで俺もこの後の展開が怖くなり、すぐにでも警察に電話できるように構える
しかし、男はしばらくしたあと起き上がり、普通に階段をのぼっていった。俺が見ている間には、女性はアパートから出てくる様子は無かった
それからしばらくして、街でその女性を見かけることがあった。前と同じくベビーカーを押して、周りの人は2mくらい離れている。ただ、前と違うのはその後ろをヤクザっぽい男がついてきている事だ
ただ、男はどこをみているのか、浮浪者のようにふらふらと女性についてきている様だった。女性に目を戻すと、女性もこちらを向いていた。フードの奥は見えなかったが、口元が動いた
なんていったのか聞こえないし、読唇術も使えない。しかし、嫌な予感がしたので足早に立ち去った
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