第678話 コンビニで

私と同じ体験をしたいならば、夜のコンビニに行ってみることをお勧めします


私が大学生の頃、自分の小遣いくらい自分で稼げと、親からアパート代と食費以外はもらっていませんでした。いえ、お金を出してくれるだけでもありがたいのですが、本当に遊ぶお金なんてありませんでした


食費を切り詰めたとしても、服を1着ユニクロで買えればいいくらいのお金しか残らなかったので、コンビニでアルバイトをすることにしました


ただ、日中は講義があるので夜間の数時間だけでしたが、それを抜きにしても夜間は時給が良かったので、少しでもお金が欲しい私には理想の仕事だと、その時はそう思っていました


慣れない仕事で疲れ、最初の頃は講義で寝てしまう事もありましたが、1か月もすれば慣れてしまいました。もともと頭は悪くないので


そして、夏休みが近づくころ、たまたま一人で仕事をする時間ができました。店長が経営するコンビニは2つあり、そのもうひとつのほうでトラブルが発生したらしいのです


「たぶん、30分くらいで戻るから、それまでよろしくね」


「分かりました!」


時刻はすでに11時をまわっています。私は1時までのシフトなので30分ならまだ残っています


それに、経験上この時間帯はお客が少なく、来たとしても夜食を買いに来るとかくらいでそんなに難しい事はありません


その日も、お客は全く来ませんでした。逆に、お客が来なさすぎると眠くなるので、本当ならある程度のお客さんが来てほしいのですけど


「店長遅いなー……」


12時近くになったのに、まだ店長は戻ってきていません。トラブルが解決しないのでしょうか?


ピポピポピポ


そんな時、入り口が開く音がしました


「いらっしゃいま――」


あくびを噛み殺し、入り口に向かって挨拶をしようとし、誰も居ないことに気が付いて言葉が詰まりました


「変ね、故障かしら?」


センサーになっているので、誰かがドアの前に立たないと開かないはずですが……幽霊を見たという話も聞いていませんし、これまでに見たこともありません


じっとしていることができず、本でも並べようかと雑誌コーナーに行きます。大抵、このコーナーは外が見える場所にありますが、夜だと光が反射して外は見えません


雑誌の梱包を解いて並べていると、ふと外に意識が引っ張られました


「キャー!」


そこには、ガラスに張り付いたゾンビのようなものが居ました。べったりと顔をガラスにくっつけ、中をうかがっています


「だ、誰か!」


店内には誰もおらず、店長も居ません。もし、今の瞬間にでも入り口から入ってきたら……そう考えると居ても立っても居られなくなり、トイレにでも逃げ込もうかと考えていたところ


ピポピポピポ


入り口が開く音がしました


「ただいま。留守番ありがとね」


そう言って店長が入ってきて、私は腰が抜け、地面にぺたりと座り込みました


「ど、どうしたんだい?」


それを見て慌てて店長が近づいてきました


「さ、さっき、店の外にゾンビみたいな人がガラスに張り付いていて……。な、なにかみませんでした?」


「店の周りには誰も居なかったけど……。でも、ゾンビねぇ……」


ここからは、店長が話してくれたのですが、もう一つのコンビニの前で事故があったそうです。バイクに乗っていた若者が、カーブで曲がり切れずに歩道の縁石にぶつかり、そのままふっとんでコンビニのガラスにぶつかったそうでした


後日、詳しい話を聞かされましたが、正直、聞かなければよかったと思いました


ノーヘルでぶつかった若者は、ガラスを突き破ることなくベタリと張り付き、事故の衝撃で額は割れ、目は片方飛び出し、腰の骨は折れ、意識不明の重体だと言う事でした


私が見たゾンビというのも、ちょうどそんな感じだったように思います

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る