第601話 雑居ビルで

これは、俺が雑居ビルで働いていたときの事だ




その日、夜遅くまで残業していた。正確な時間は覚えていないが、23時は回っていたと思う




狭い通路を抜けた先は、唯一のエレベーターにつながっている




通路は何が入っているのかわからないような箱が積みあがっていて、ただでさえ狭い通路が人が一人通れるくらいの幅まで狭まっているのだ




そんな消防法にひっかかる通路を抜けてエレベーターにつくと、ちょうど開いていた




特に何の違和感も覚えず、そのときはただ「ああ、エレベーターがあいているな」くらいの感覚だった




そして、中に入ると小学生低学年くらいの子供が乗っていた




黄色い帽子をかぶっていたので、男の子か女の子かわからない




「ねえ、君、男の子? それとも女の子?」




俺はなぜか聞かずには居られなかった。雑居ビルにはいろいろな会社が入っているので、誰かが連れてきたのだろうと思っていたから、話しかけること自体に問題は無いと思っていた




返事が無いので、その子の顔を覗き込もうとする




すると、その子は慌ててエレベーターを降りて走って行ってしまった




この階層には、俺の会社ともう一つ会社があるのだが、そちらのほうはすでに全員帰宅しているようだった




違和感を感じたのは、エレベーターを降りるときだった




このエレベーターのボタンは、小学生では届かない位置に取り付けられていた




しかも、外からビルを見上げると、どの階も真っ暗だった




俺は怖くなって走って帰った。次の日、なぜビルのカギをかけて帰らなかったのかと怒られたが、正直に話していいものだろうか?

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