第587話 メモ帳

ビジネスホテルの部屋の中にある電話には、メモ帳が備え付けられていた




ただ、そのメモ帳は新品ではなく、使いまわしだ




そのメモ帳に、鉛筆を斜めに当ててこする




すると、前に何が書かれていたのか浮き上がってくる




大抵は、ビジネスマンなのだろう。次の打ち合わせの日時だったり、名前や場所のメモだったりする




ある時、いつもの癖みたいなもので、メモ帳を鉛筆でこすると




たすけて




と日本語で書かれていたので日本人なのだろう




誰に向けて書かれたものなのか。心配にはなったが、何かあればホテルの人が対応しているだろう




いつ書かれたのかすら分からないのだから




しかし、次の日の朝。昨日のメモ帳はいつの間にか新品と入れ替えられていた




いつの間に入れ替えたのだろうか? 寝ている間にホテルの人が変えるとは思えないが




閉じられたメモ帳を一枚めくり、表面を撫でると、新品になったのではなく一枚むしられていたのだと気付いた




それでも変な話だが、さらに変なのはメモ帳にすでに凹凸があったことだ




昨日から自分以外ここに出入りしていないはずなのに




おそるおそる何が書かれているのか、鉛筆でこすってみる




なんでたすけてくれないの




ぞわりとした




この部屋に誰か居るのだろうか




そう思って辺りを見渡している間に、メモ帳がまたむしられていた




どうして無視するの なぜたすけてくれないの




私は部屋を飛び出した




部屋から、びりびりとメモ帳の破れる音がする




私は部屋に戻る事が出来なくなり、ホテルの人にフロントまで荷物を運んでもらった




さりげなくあの部屋で何か事件でもあったのか聞いてみたが、何も無いようだ




はぐらかされたわけではなく、本当に分からないらしい




私の癖が、たまたま引き寄せたのか、何かがあったのかは分からない


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