第584話 仮設トイレ

私は、帰りを急いでいました




部活を終え、徒歩で帰っている途中に、急にお腹の調子が悪くなりました




私の帰り道には、コンビニも公園もありません




しかし、その辺の民家でトイレを借りる……という勇気もありませんでした




それでも、その辺の草むらでというのは、女子高生としてはありえない選択です




(男だったら、その辺で……いえ、やっぱり男でも無理よね……)




どうでもいいことを考えつつ、家に早く着くように歩きます




すると、ちょうど空き地の様な場所に簡易トイレがありました




工事をしているような感じではなく、誰も居ません




私は、視野の狭まった考えでは、そこで用を済ます事が一番としか思えませんでした




(すいません、お借りします!)




誰に、というわけでもないけど心の中でお願いをして簡易トイレを開けます




覚悟していたような汚さはありませんでした




蜘蛛の巣が張っていたり、虫が居たりという事もありません




洋式ではありませんでしたが、ここで文句を言えるような立場でもありません




据え置きのトイレットペーパーはありませんでしたが、手持ちのポケットティッシュがあるので問題ありません……足りればですが




トイレのドアを閉じ、鍵を閉め、用をたします




(ふぅ、間に合った……)




水が流れるタイプではなく、水の無い災害地などに設置されるような、足踏みペダルを踏んで汚物を下に落とすタイプでした




そして、さあ外に出ようと鍵に手をかけた時です




バンッ




ドアを思い切り平手で叩くような大きな音がしました




私は、びっくりして鍵から手を放し、様子を伺います




バンッ、バンッ、バンッ




「す、すいません、勝手にお借りして!」




ここに設置した人が戻ってきたのだと思い込んだ私は、ドアの向こうの人に向かって謝りました




バンバンバンバンバン




しかし、ドアを叩く音が、トイレ全体を叩く音に変り、天井からすら叩いています




これは人一人どころか、人間業じゃない……そう思った私は、うずくまって音が止むのをひたすら耐えるしかありませんでした




それからどれくらいの時間が経ったでしょうか。いつのまにか、音は止んでいました




おずおずと鍵を開け、扉を開けようとします




しかし、さっきの叩く音がするのではないかとなかなかドアを開ける事は出来ませんでした




それから10分くらい葛藤して、ゆっくりとドアを開きました




外には誰も居なく、あたりは暗くなっていました




私は急いで走って帰りました




次の日、同じ場所を見たのですが、そこには空き地など無く、当然仮設トイレも無く……ただ、古い家が一軒建っているだけでした


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