第581話 ささやき声

最近、何かをしようとした時に、ささやき声が聞こえる




「おい、今日はこっちから帰れ、そっちは通行止めだ」




最初に聞こえたのはこんな声だった。子供のかすれたような声で、耳元でささやかれた




振り向いたけど、誰も居ない




気のせいかと思っていつも通りの道へ帰ると、通行止めだった




あとでニュースでやっていたが、事故があってガソリンが漏れ出したため、封鎖していたらしい




次にささやかれたのは、学校で掃除をしていた時だ




「今日は西の階段を使うな」




西の階段に何かあったかな? そう思っていたが、掃除をしているうちに忘れていた




最後にゴミ捨てをしに階段へ行った時だ




ささやきがあったことを忘れて、ゴミ捨て場に近い西階段を通ろうとした時だ




走って階段を降りようとした男子学生が、階段で足を滑らせた




誰かがワックスをこぼしたらしく、滑りやすくなっていたらしい




男子学生は、左手首のねん挫と、肩の打撲でしばらく通院するほどの怪我を負っていた




この声は、幸運を運ぶ声だと思い、喜んだ




それからも何度か危機を回避した




今もささやき声があった。「早く帰れって?」




「おい、お前、何を付けているんだ?」




体育の教師に後ろから呼び止められた




そして、俺の耳に手をかがすと、何かをつまんだ




その手には、ハエのような小さな生き物がつままれていた




体育の教師はそれをティッシュでつぶした




それ以来、ささやき声は聞こえなくなった

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