第569話 ピアノのコンクール
ある少女が居ました
どこにでもいる普通の少女ですが、彼女の母親はピアノの先生でした
娘にピアノをやらせようと、幼いときからずっとピアノを触らせていました
そのおかげで、少女は有名なコンクールに出られるほどに上達しました
しかし、それと同時に母親のレッスンも過酷なものとなりました
少女が間違えるたびに、母親から叱責と共に平手打ちが飛んできます
少女はピアノが好きでしたが、母親からの暴力には耐えられなくなってきました
そんな少女を可哀そうに思った神様が、少女の夢の中で語り掛けました
「少女よ、お前は大変努力家であるが、母親の理想ほどではない。お前はそのうち母からの重圧に耐えかねてピアノをやめてしまうだろう。それでは可哀そうだから、私が一つお前の願いを叶えてやろう」
少女は、今の環境から抜け出すにはどうすればいいか考えました
楽譜を素早く覚えられる記憶力? いいえ、楽譜を覚えるのは得意なのでそこまで変わらないはず
鍵盤を正確に叩ける器用さ? いいえ、正確に叩くだけでは母親の求める表現までは再現できません
それじゃあ、完璧な表現力? いいえ、母親の気持ち次第でその完璧は変わります
少女は考え、最終的に願いを決めました
「あなたは、何でこんなことも出来ないの!」
母親から平手打ちが飛びます
少女は母親の言う通りにやっているはずですが、それでも母親は満足していません
「ごめんなさい、母様」
少女は叩かれて腫れた頬を触ります
しかし、少女はそれを苦痛に感じる事はありませんでした
なぜなら、少女は神様にあらゆる痛みを感じなくしてもらったからです
母親が手を出す回数は増えるばかりですが、少女はそれを耐える事ができました
その甲斐あって、大きなコンクールに出る事になりました
このコンクールで優勝すれば、プロの道まであと少しです
母親の期待に応えようと、服装の乱れなどもチェックします
「早く来なさい!」
「は、はい!」
少女が慌てて車に飛び乗ると同時に、母親はドアをバタンを閉めました
そして運転席に向かい、会場へと向かいました
会場に着き、母親が車のドアを開けます
「さあ、着いたわよ。今日は実力をしっかりとはっきしなさい!」
「ごめんなさい、母様……」
少女は、コンクールに出る前から暗い顔をしています
「そんな顔じゃ、明るい曲も暗くなってしまうわ! さあ、笑顔で!」
「ごめんなさい、母様……」
少女は後ろ手に組んだまま、もじもじと会場に向かおうとしません
「どうしたのよ! さあ、行ってらっしゃい」
「ごめんなさい、母様……」
3度目に、謝りながら少女は手を前に出します
「車に乗った際に、ドアに手を挟んでしまったの……」
少女の指は、折れてぐしゃぐしゃでした。これではピアノを弾くことは出来ません
幸い、少女は痛みを感じる事は無かったのですが、2度とピアノを弾くことはできなくなりました
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