第567話 絵本

ある家に忍び込んだ




なぜなら、そこは留守に見えたからだ




長年空き巣をやっていると、人の気配や音に敏感だ




そんな俺が忍び込んだ家だ




見た目は普通の1件屋だが、田舎という事もあり敷地自体は広い




出かけているのだろうが、不用心にもドアが開いていたのだ




1階を調べ、次は2階へ




家の中の配置を覚え、だいたい貴重品があるであろう場所の目星をつけた




2階から1階へ戻った時、声がした




俺はドキッとして立ち止まる




(さっきは誰も居なかったのに!)




この部屋の前を通らなければ外へは出られない




覚悟を決めてそっと部屋を覗くと、運よく斜め向こう側を見ていた女性が居た




何をしているのかと思ったら、クマの人形に向かって絵本を読んでいるようだ




「----、---」




ぼそぼそとしゃべっているため、よく聞こえないが子供を寝かせるために読んでいるように感じる




今のうちにそっと通り過ぎようとしたところで、クマがぱたりと倒れた




「誰が居るの?」




全くこちらを見ないまま、女性はそう呼び掛けた




俺はそっと後戻りをする




しかし、それ以降なんの声もかけられず、だからと言って室内で動く気配も無かった




ドキドキと心臓がだんだんと高鳴っていく




もう少し後戻りして2階で待機しようと思ったところで肩を叩かれた




心臓が飛び出るかと思って後ろを振り向く




「安心せぇ、わしは除霊師じゃ」




肩を叩いたのは除霊師を名乗る老婆だった




声を出されたらさっきの女性に見つかる




俺はこの老婆を黙らせようとして口をふさごうとしたが、老婆がポツリと




「あの女性は亡くなっておるよ」




と、気になるセリフを吐いた




(何をばかな)




そう思って、もう見つかる覚悟でもう一度部屋を覗くと、誰も居なかった




すると、老婆は話を続けた




「夫が出張に行っている間、彼女は一人で子供の世話をしていた。彼女が子供を寝かせようと、絵本を読んでいた時の事、家に強盗が入って彼女を刺し殺したそうだ。その殺し方も凄惨で、女性の腹を刺した包丁で腹を切り開くと、そこから腸をひっぱりだして代わりにクマの人形と、女性が読んでいた本を詰められていたそうだ」




「な、なんでそんなに詳しいんだよ……」




俺はおかしいと思いだした。入り口を通らずに、いつの間に俺の背後に忍び寄った? 気配に敏感な俺の背後を……




「そして、女性の腸はこの廊下まで伸ばされていたそうだ。ワシは彼女を除霊しようと呼ばれたのだが――」




そこで老婆は言葉を止めると、急に血を吐き出した




「この通り、逆に呪い殺されてしもうた。ケケケッケ、ケケッ」




老婆は白目をむき、腹からだらりと腸が飛び出す




それと同時に家が急に古くなり、廊下がまるで脈動するようにぐにゃぐにゃと動き出した




「うわー!」




俺は玄関に向かって走った




足を取られそうになったが、そこは持ち前の運動神経で倒れずに走り抜ける




あと少しで玄関というところで




「息子は助かったのよ? 私のかわいい息子は」




いつの間にか、真横に女性が立っていた




腹から腸を垂らし、口からは血を流す、さっきの老婆と同様に




いや、この女性と同じ目に老婆は合わされたのだろう




「あなたにお願いがあるの。この本と人形を、必ず息子に渡して」




そう言って腹から血だらけの本とクマの人形を俺に押し付ける




そして、家から追い出すように廊下が脈動し、実際に家から追い出された




尻もちをついて見上げた家は、ボロボロの空き家だった




しかし、夢ではない証拠に、血だらけでは無いが絵本と人形が俺の腕に抱えられている




それから、必死になってこの家の息子を探した




運良く、東京にいる事が分かった




明日、この人形と絵本を渡しに行く




それで俺が助かるのかどうか……


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